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スマートシティの都市OSが農業の生産から流通・消費までを変える【第29回】

藤井 篤之、佐藤 雅望(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年9月14日

山梨市:自営のIoTネットワークで圃場を守る

 山梨市は、葡萄や桃の栽培が盛んな人口3万3000人余り(2022年4月時点)の自治体である。他の自治体同様、農作業従事者の高齢化や、後継者不在などを理由とした慢性的な労働力不足に悩まされている。

 地域の基幹産業である果樹農業を守るために山梨市が2017年から取り組んでいるのが、圃場(ほじょう)へのIoTネットワークの整備である。NTT東日本と協力し、LPWA(Low Power Wide Area)規格による自営無線ネットワークの基地局を市内5カ所に設置し、各種IoT機器をつないでいる。電源供給が困難なエリアでも利用できるよう、自然光や機械の熱や振動で給電できるシステムを採用している。

 このIoTネットワークは、高価なシャインマスカットの盗難対策や果樹園の環境モニタリングなどに利用されている。これにより、以前に比べ、圃場を巡回する頻度は20%削減された。圃場の環境データを蓄積・活用することで、JAが農家に提供している栽培マニュアルに準拠する形で、農作物の安定的な作出が可能になっている。

 同システムは2020年から拡張され、市が管理する河川や土砂災害の特別警戒地域の監視に応用されている。災害時の状況確認や定期巡回の稼働数が減るなど、市域情報の安全かつ効率的な情報収集が可能になった。

 2022年からはさらに、高齢者の平時の見守りや災害時の安否確認に活用するなど、福祉分野への応用を進めている。見守り用として、高齢者が集まる施設や、希望する高齢者の自宅や靴、キーホルダーにIoTセンサーを設置・配付している。

会津若松市:地産地消のために農産物をマッチング

 福島県会津若松市のスマートシティプロジェクトは、東日本大震災の復興事業としてスタートし、さまざまな領域でのスマートシティ関連サービスの実証に取り組んでいる。その中で、農業のスマート化に対しても、プロジェクトを支える中核団体であるAiCTコンソーシアムを中心に官民を巻き込んで挑戦している。

 例えば、同地の名産の1つであるトルコギキョウを対象にした養液土耕・養液栽培システム(ルートレック・ネットワークス製)の適用がある。潅水や施肥の自動化により生産の省力化を図ることで、作業時間を年間数十時間削減。トルコギキョウの品質も、3段階ある等級において最も優れた「秀」として出荷される量が増えている。

 流通や消費領域におけるサプライチェーンの最適化を目的に、地産地消を実現する農産物のマッチングプラットフォームの運営も始めている。AiCTコンソーシアムの参画企業である凸版印刷が中心になって立ち上げた「ジモノミッケ!」である(図2)。生産者の申し込み内容の審査からマッチングの監視、集荷、分荷、配送までを、市公設卸売市場内にある仲卸の会津中央青果がワンストップで運営している。

図2:地元の農産物を新鮮かつ安価に届けるためのマッチングプラットフォーム「ジモノミッケ!」

 ジモノミッケは、生産者と地元の飲食店や宿泊施設、食品加工会社を直接つなぎ、新鮮で安価な地元の農産物を届けるためのサービスである。マッチング後は、専任の配達員が指定日時に生産者の軒下を訪ね農産物を集荷し、AI技術で算出した最適なルートを辿って実需者に届ける。この間、適切な温度管理と無線タグによるトレーサビリティを担保する。

 すでに、会津若松市とその近隣地域から約50の生産者と、宿泊施設や介護施設、飲食店、食品加工業社、小売店など約40社の実需者がサービスを利用している。参加者からは、規格外品の取扱いや受発注の可視化によるフードロスの削減、地域内流通の最適化と梱包の簡易化による生産者の負担軽減といった効果を期待・実感する声が届いている。

 将来的には、需要をリアルタイムに予測し取引相手との自動マッチングや、デジタル地域通貨決済による現金化までのタイムラグ解消など、農業を軸とした域内ビジネスの活性化にもつなげたい考えである。