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スマートシティの都市OSが農業の生産から流通・消費までを変える【第29回】

藤井 篤之、佐藤 雅望(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年9月14日

スマートシティは、デジタルテクノロジーとデータの活用によって、より効率的な社会を実現する取り組みである。そのメリットは、都心部にとどまらず、農村など人口の少ない地方にも大きな恩恵をもたらす。農業を基幹産業とする地方は少なくないだけに、地方におけるスマートシティを語るうえでは、農業は外せない。今回はスマートシティと農業の関係について解説する。

 日本の農業は今、就業人口の減少という大きな課題に直面している。農業就業人口は2010年の約260万人が2020年には約152万人に減少した(『農林業センサス』、2010年/2020年、農林水産省)。そのうち、農業を生業とする基幹的農業従事者数は2010年の約205万人が2020年には約136万人にまで落ち込んでいる(同)。高齢化も顕著だ。2020年の時点で、基幹的農業従事者数の約70%が65歳以上であり、49歳以下の若年層の割合は約11%に過ぎない。

 農地面積も、1961年の約610万ヘクタールをピークに、2021年には約435万ヘクタールにまで減少した。ただ、一農業経営体当たりの耕地面積は拡大傾向にある。農地の所有や利用に関する規制の緩和、所有者から農地を借り受け担い手に貸し付ける農地中間管理機構、新規就農者支援に取り組むJA(農業協同組合)などの尽力によるものだ。それでも、総土地面積の約7割を中山間地域が占める日本において、農地の大規模化が難しい地域は少なくない。

 食料は生命の源である。その食料を継続的・安定的に供給する農業の重要性は疑う余地もない。加えて、地域の文化や景観へのかかわりも大きい。農業に携わる人々の減少と高齢化に対し、スマートシティの枠組みを利用した革新は、なんらかの解を用意できるのだろうか。

農業とスマートシティはどう関係するのか

 現在、デジタルテクノロジーを活用して変革を引き起こすDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが、あらゆる分野で加速している。その一環で、既存業務の効率・生産性を飛躍的に高めようとする動きも高まっている。こうした動きは農業分野での例外ではない。

 農業分野におけるDXといえば、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ロボット、ドローンといった技術の活用が想起される。省力化や農業従事者の労力軽減、生産性の向上などを主目的とした取り組みが国内外で進んでいる。だがDXが農業分野にもたらす効果は営農のスマート化だけに留まらない。図1に挙げるように、流通や加工、販売など農業の川上から川下までをカバーできるからだ。

図1:DXが農業分野にもたらす効果の例

 これらの効果を生み出す仕組みの中核に位置するのが、内閣府が2020年3月に発表した「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」に準拠する「都市OS」である。

 都市OSは、都市や街を効率的に機能させるためのソフトウェア基盤である。そこに蓄積・構築されるデータやサービス同士の連携を容易かつ迅速にする。すなわち、交通や健康、環境、物流など多分野における課題を解決するために蓄積・構築されたデータやサービス、さらには各種ノウハウを、農業が抱える課題解決に応用できるようにする。

 現実には、技術的な制約や人材不足などの課題から、スマートシティにおける農業改革は、まだ端緒についたばかりだといえる。ただ一方で、すでに成果を挙げつつある自治体もある。2つの実例を紹介しよう。