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スマートシティの都市OSが農業の生産から流通・消費までを変える【第29回】
農産物のマッチングは従来の市場の役割を変えていく
ジモノミッケが挑む農業分野の課題は会津若松市に限定されるものではない。地方で生産された質の良い農作物の多くは、東京をはじめとする都会の市場に流れていく場合が多い。需要が大きく高い卸値がつきやすいことに加え、従来の市場の仕組みでは、全国に食料を効率的に配布するためには、一度市場に集めて再配布する必要があったからだ。
しかし、需要動向によっては、一度都会に運ばれた農産物の一部が、地元の市場に還流するケースも少なくない。鮮度が落ち、ムダな輸送コストがかかった農産物が、生産地近くの市内や近隣エリアで流通するわけだ。
農産物を市場に出荷する前に、地元での需要を把握できれば、鮮度の高い農産物を地元の消費者に届けられ、いわゆる“地産地消”がうながされる。余計な輸送コストや輸送時間をかける必要もなく、食品ロスやCO2の削減にもつながっていく。
生産者にとっては、流通コストのために安く卸さざるを得なかった農産物を直接売ることで売値の単価上昇が期待できる。これまで認知されなかったニッチな農産物の価値を地元の需要家に認めてもらえれば、より地域性に基づくブランド化が可能になる。供給がダブついた際もリアルタイムなマッチングはフードロス削減につながるとも考えられる。
資金繰りの面でも、デジタル地域通貨との連携を都市OS上で図れば、現金化までのタイムラグを解消し、決済の可視化・最適化が図れる。仲卸などの地域事業者にとっても、新しいチャネルでの販売が雇用創出や新しい収入源につながっていく。
一方の消費事業者/実需者は、自らが必要とする農産物についての需要情報を発信することで、差別化につながる農産物をより訴求力が高い地元から調達できる。
ここでも、都市OSが持つデータ連携機能が有効に作用する。他地域への展開が容易になるからだ。例えば、希望する一般消費者に対し生産者自らが食の嗜好や健康状態に合った農産物を提案したり、新たな地域ブランドを立ち上げ、生産者が自ら手掛けた付加価値の高い農産品を、都市OSを通じて連携した他都市・地域に売り込んだりすることも考えられる。
むろん、農作業の負担低減や省力化、マッチングプラットフォームの運営などは、都市OSに接続しなくても運営はできる。しかし、人口が少なく経済規模が小さい地方では、それだけの仕組みを地域単体で採算ベースに乗せるのは至難の業だろう。
さらに国や自治体、コンソーシアムに参画する企業同士が知恵を出し合えば、農業以外の分野のデータ/サービスと連携した新しいビジネスアイデアの実効性も高まってくる。技術的な課題やノウハウ不足、費用対効果の課題などがないわけではないが、都市OSを使ったスマートシティを共創・共有の場にすれば、その可能性は広がる。
スマートシティの考え方は、地方を支える農業のあり方を変え、地域コミュニティーの維持・発展へとつなげるポテンシャルを秘めているといえる。
藤井 篤之(ふじい・しげゆき)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。
佐藤 雅望(さとう・もとみ)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 サステナビリティプラクティス シニアマネジャー。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。米系コンサルティングファームを経て、アクセンチュア入社。サステナビリティを起点とした農業のスマート化、カーボンニュートラル化などの戦略立案や新規事業立ち上げに従事している。