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  • デジタルで変わる組織―離れていても強いチームを作る

市場機会を見つけ誰よりも早く行動する自律分散型組織を目指せ

コロナ禍でも成長する新たな組織構造をデザインする

DIGITAL X 編集部
2021年1月26日

デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための方法論の1つとして注目が高まっているのが「アジャイル・スクラム(Scrum)開発である。一方で「スクラムを導入してみたものの思ったような成果がでない」という声も耳にする。Scrum Inc. JapanでSenior Coachを務める和田 圭介 氏が「Digital X Day 2020 Online Live」の基調講演に登壇し、スクラム導入のポイントと、スクラムを全社的な取り組みするための方法論を紹介した。

 「スクラム(Scrum)」は、『アジャイル ソフトウェア開発宣言』の著者の1人であるジェフ・サザーランド氏によって開発されたシステム開発手法である。『失敗の本質』を著した野中 郁次郎 氏の論文からヒントを得て開発された。

 日本国内でもスクラムは、すでに十数年の取り組み実績があり、その活用範囲もソフトウェア開発にとどまらず、組織における様々な活動を、よりアジャイル(俊敏)にするために活用されている。

 サザーランド氏によるスクラムのコンサルティング会社である米Scrum Inc.の日本法人でSenior Coachを務める和田 圭介 氏は、スクラムを取り巻く今日の状況を「組織変革の重要性が、かつてないほどに高まっています。コロナ禍にあっても成長するための新たな組織構造が求められているためです」と説明する(写真1)。

写真1:Scrum Inc. JapanでSenior Coachを務める和田 圭介 氏

コロナ以前から日本はビジネスのやり方が間違っていた

 和田氏がスクラムに本格的に取り組んだのは2013年のこと。当時在籍していたKDDIがスクラムを導入する際にプロダクトオーナーを任された。

 当時について和田氏は、「生産性とチームの満足度を同時に向上させるスクラムの働き方に魅了され、社会人になって初めて“楽しい”と感じた」と話す。だが一方で、「KDDIという大企業がチームレベルでスクラムすることに限界も感じていた」(同)ともいう。

 2017年には米ポストンに出向き、サザーランド氏から組織変革の手法を学んだ。帰国後はKDDIの新規事業担当者に就き、2019年にScrum IncとKDDIの合弁会社としてScrum Inc. Japanを設立した。その後はスクラムコーチとして、多くの企業の組織変革に携わってきた。そこで学んだのは「スクラムはシステム開発手法にとどまらず、組織構造を変革する方法論である」(和田氏)ということだ。

 組織構造の変革について和田氏は、「コロナ禍で組織変革の重要性が叫ばれていますが、日本では、コロナ以前からビジネスのやり方が間違っていたのではないか」と指摘する。「日本は長期にわたり停滞している」(同)のが、その理由だ。

 具体的には、1990年代には日米で同規模だった1人当たり名目GDPが今は、米国と日本では1.5倍以上の開きがある。この間、付加価値の高いビジネスモデルを生み出せていない。さらに和田氏は、「それ以上に深刻なのは熱意です。日本人の熱意は139カ国中132位です」と指摘する。

 和田氏は2016年、野中氏にも会い、「日本企業が抱える最大の課題をシンプルに教えていただいた」という。それは「旧日本軍の失敗の本質は大本営にある。階層型の組織であり、重要事項は過去の成功体験に基づいて決定されていた。これは現代の日本企業でも同じ」という示唆である。

 さらに野中氏は、「米Tesla Motorsや米Amazon.comと日本企業の違いは、自立分散モデルを採用しているかいないかにあるとも教えてくれました」(和田氏)と明かす。

 テクノロジーが進化しライフサイクルが進化するなか、新たなビジネス機会が、いつ生まれるかは誰にもわからない。そんなとき、自律分散型の組織では、いずれかのチームが新たな市場機会を見つけ、誰よりも早く行動する。それに他のチームが自律的に連携し一気にビジネスモデルを作りあげる。

図1:新たなビジネス機会は自律分散型の組織が見いだす

 従来型企業からみれば、あまりにも成長が早すぎるため、彼らを「ディスラプター(破壊者)と呼ぶ。和田氏は「『ディスラプターが採用するチーム運営手法がスクラムだ』と野中氏から伝えられた」と、当時を振り返る。