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DXのカギ握る「デジタルツイン」で実現できること【第1回】

草薙 昭彦(Cognite チーフソリューションアーキテクト 兼 CTO JAPAN)
2021年2月16日

デジタルツインの活用分野が広がっている

 産業分野におけるデジタルツイン活用例をいくつか紹介します。

図1:船舶にデジタルツインを適用したイメージ(出所:ノルウェーのCognite)

データに基づくメンテナンス(予防保全)

 デジタルツインに、機器や機器に関連するIoTデータを結びつけることで、データに基づいたメンテナンスを実現できます。例えば、過去から現在までのセンサーの時系列データやイベントデータを結び付けることで、機器の故障を事前に予測する、つまり予知保全を実現できます。

資産(機器や生産設備)の最適化

 製造業やエネルギーなど産業現場には膨大な数の機器やセンサーが存在するのが一般的です。デジタルツインを用いることで、機器の運転状況を分析できるほか、デジタル環境におけるシミュレーションによって運転の最適化を図れます。言い換えると、生産プロセスの変更・改善、新しい施策のテストをデジタル環境で実施でき、最適な生産方法を発見するのに役立ちます。

デジタルワーカー

 デジタルツインが現場の作業員の働き方を大きく変えます。作業現場の機器の位置をデジタルツインを用いて瞬時に検索・誘導することで、作業員は、より効率的に働けるようになります。ほかにも、Google Mapで外国の風景を確認するのと同様の感覚で、デジタルツインを用いて現場の遠隔保守が実現できます。

持続可能性の確保

 データに基づくメンテナンスや資産の最適化、デジタルワーカーの実現を通じ、産業の持続可能性を様々な面からサポートできます。例えば、資産の最適化を通じてCO2削減を促進することも可能です。新型コロナウィルスがビジネスに与える影響や日本での労働人口減少といった大きな社会問題に対しても、デジタルワーカーを実現することで、より効率的な運営や的確な技術伝承行による持続的なビジネスに移行できます。

ビジネスモデルの変革

 デジタルツインはビジネスモデル変革のきっかけになる可能性があります。例えば、これまでは工場に製造機器を出荷し、定期的なメンテナンスをサービスとして提供していたOEM企業であれば、出荷後もその機器の状態をデジタルツインの運用で把握すれば、CBMを採用したアフターサービスを実現できます。

 いかがでしょうか。デジタルツインは、産業界のイノベーションに向けて大きな可能性も持っています。本連載では、筆者が勤めるノルウェーのCogniteが世界中の現場で実際に取り組んだ経験を中心に、デジタルツインの構成技術や産業分野での最新事例を紹介していきます。

 次回は、デジタルツインの実現方法を紹介します。

草薙 昭彦(くさなぎ・あきひこ)

Cognite チーフソリューションアーキテクト 兼 CTO JAPAN。1975 年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻修士課程修了。大手外資系IT企業数社を経て、現職。シンガポール在住。近年はデータエンジニアリング、分析および、その表現手法としてのビジュアライゼーション技術に重点を置いている。東京の公共交通3Dマップ「Mini Tokyo 3D」の作者としても知られる。