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- デジタルツインで始める産業界のDX
デジタルツインを実現する5ステップ(前編)【第2回】
前回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みにおいて重要な役割を担う「デジタルツイン」について、その定義と、それによって何が実現できるのかについて説明しました。今回からは、デジタルツインを実現するためには、どうすれば良いのかについて前後編に分けて説明します。
前回説明したようにデジタルツインは、現実世界における情報収集から、運用と施策の実現、デジタル世界における分析や計画までがシームレスにつながる概念です。現実世界とデジタル世界の両方のシステムが連携して価値を生み出せなければ意味がありません。
ITシステムの構築において繰り返されてきたように、デジタル化を目的としたテクノロジー自体や、デジタルツインの“入れ物”となるハードウェア/ソフトウェア製品が持つ機能の優劣に焦点を置きすぎたアプローチは、デジタルツインを実現するためのプロジェクトでも失敗の元です。多くの成功プロジェクトと同様、鍵を握るのは現場と経営層を含めた関係者の納得感とコミットメントです。
ところで本連載では、デジタルツイン構築プロジェクトという呼称をかなり広い意味で使用しています。例えば、現場にある機器に設置したセンサーで収集したデータをITシステムに格納しダッシュボードで見える化するといったプロジェクトは「業務のデジタル化」とは言えるものの、デジタルツインの構築というには大げさ過ぎるかもしれません。
ただ、これを企業がデジタルツインを活用した将来的な業務改善の一部に位置付けるなら、広い意味でのデジタルツイン構築プロジェクトだと捉えられます。次のステップ、もしくは将来において、そのようにして収集したデータを3次元の仮想空間上に可視化する、あるいは業務に特化したAI(人工知能)アルゴリズムで有用な指標を生み出すといったことが可能になるからです。
デジタルツイン構築プロジェクトに特有の要素に、これまでにない新しい価値を組織として追求する取り組みであるということがあります。そのため、短期間で試行を繰り返し、成果を確認しながら軌道修正を繰り返す段階的なアプローチが有効です。
図1は、デジタルツイン構築プロジェクトにおいてCogniteが顧客に提案している段階的なアプローチを示したものです。(1)バリューウィーク(VALUE WEEK)、(2)フェーズ1、(3)フェーズ2の3段階からなっています。
バリューウィークは、データ活用のユースケース(事例)を1つ取り上げ、弊社メンバーを中心に非常に短い期間で価値を確認する段階です。フェーズ1では、バリューウィークの成果を顧客が引継ぎ、顧客自身が価値を生み出せるようになることでユースケースを拡大する段階、フェーズ2は実際の業務運用に浸透させていく段階になります。
以下では、この段階的アプローチにおけるバリューウィーク以降に実施する取り組みを5つのステップに分けて、デジタルツイン構築プロジェクトの実際を説明していきます。前編ではステップ1とステップ2を説明します。
ステップ1:ユースケースとビジネス価値を明確にする
プロジェクトで非常に重要なことは、デジタルツインを、どのような業務領域やプロセスに役立てたいのかを明確に定義することです。デジタルツインの構築そのものよりも大事だと言っても差し支えありません。その定義においては、経営上の課題を解決におけるゴールと方向性が一致していることと、業務プロセスを理解していることが必須になります。
デジタルツインの構築および、それを活用したアプリケーション開発は、局所的な業務改善やシステムの効率化とは異なり、部門をまたがった全社的な業務プロセスの改革が目的になります。従って、企業が本当に解決を欲している課題の解決にどれほど貢献できるのかという議論がなければ、投資が無駄になり、望むような成果が得られないという恐れがあります。
では、ユースケースとビジネス価値を明確化するに当たっては、どのような有効な方法があるでしょうか。Cogniteが顧客と共に進めているユースケース・ワークショップを例に、同ワークショップを通じた議論と関係者間の合意形成の方法を紹介します。
ユースケース・ワークショップは通常、関係者を集めた1日コースで集中的に開催します。そこでは、(1)Ideation(アイデア出し)、(2)Develop(発展)、(3)Detail(深堀り)という3つのセッションを通じて、参加者が持ち寄ったアイデアを共有しながらオープンに議論します。様々な視点で優先付けや価値を確認し合うことで具体的かつ詳細なユースケースに落とし込みます(図2)。
重要なのは、部門をまたいだ関係者全員の参画と、議論の経過をオープンにして共有することです。プロジェクトの進行過程では、ともすれば摩擦や利害の衝突が起こりかねません。そうした立場の違いを乗り越え、関係者全員が納得感を持ち、それぞれの役割を果たしながら、1つのゴールに迅速に向かって協力するためには欠かせないステップになります。