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“人間中心”の地域DXが目指すべきもの【第2回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年3月25日

ステージ1:トップダウン型のこれまでのIT導入の実態

 IT社会の実現においては、従来のトップダウンモデルの社会構造は継承したままに、組織の効率化を実現するために、多くの労働力を抱える大組織から導入が進んできた。国際会計基準に準拠するためでもあった。

 そのために関係するリソース全体の効率化を実現するためのERP(統合基幹業務システム)の導入や、世界規模で物流と情報を繋ぐSCM(サプライチェーンマネジメント)などが国内でも整備されてきた。

 ただトップダウン型は、社会を形成する中枢組織から整備が始まるため、国内では産業界や医療業界、地方の主要産業である観光業界でのIT化は遅れたままである。中枢組織が考えて決定し、導入しようとしたサービス(政策)であるために、現場での導入が進まないケースも多く見られる。

例1:中小企業におけるIT導入の遅れ

 日本経済の中心である中小企業では、一部の革新的企業や大企業の系列組織でしかIT導入が実現できていない。企業内の見える化(オープン化)も、関係組織との連携(コネクテッド)すらできていないことが多いのが現状だ。この状況が続けば、事業承継問題も解決しないまま廃業を余儀なくされる企業も増えてくるだろう。今こそフラット化を進めるための共同プラットフォームが必要になってくる。

例2:医療分野におけるIT導入の遅れ

 医療業界では一般病院への電子カルテシステムなどの普及率は5割に満たない(2017年時点)。厚生労働省は、診療報酬明細書を中心としたPHR(パーソナルヘルスレコード:個々人が自身の医療に関わる情報や健康に関するデータを記録し、自身が手元で管理する仕組み)サービスを開始する予定だ。

 だが今後、健康診断データや投薬・食事データ、バイタルデータなど、地域にある医療データとの連携が課題になってくるだろう。コロナ禍で露呈した保健所のIT化の遅れを含め、トップダウン型のIT導入モデルの限界が、ここにある。「オープン・フラット・コネクテッド・コラボレーション・シェア」の考え方からすれば、まずはオープンにするところから始めなければならない

ステージ2:地域DXに貢献するオプトイン

 筆者が福島県会津若松市で約10年をかけて挑戦してきたスマートシティプロジェクトの最大の特徴は、「オプトイン」を前提に社会を構築してきたことである。

 オプトインとは、市民から事前に承諾を得ることである。単なる手続きの一部として考えられているかもしれない。しかし筆者が定義するオプトインとは、「市民が自らの意思で家族や地域、そして次世代のために地域のデジタル化の構築者として参加すること」である。

 市民と社会の関係を双方向に変え、トップダウン型で硬直化した社会を再構築するために進めてきた。市民はオプトインすることで地域のDX化に積極的に参加・貢献し、その恩恵としてパーソナライズされたサービスを受けるのだ。

 ステージZEROは、ボトムアップ型でオプトインした市民個々人のデータを把握・分析することによって、市民が必要とする共通サービスと、1人ひとりにパーソナライズしたサービスを、政策としてトップダウンで実現するモデルである。人間中心のDXを実現するのであれば、オプトインが大前提になる。

例3:医療分野でのオプトイン

 自身の健康情報を担当医と共有することで、パーソナライズされたレコメンデーションが得られ、疾病の早期発見や予防医療のための考え方や行動が促され、健康長寿の実現につながる。地域全体としては予防医療体制にシフトすることで、医療費の拡大抑制につながっていく。パーソナライズされた新たな健康関連サービスが生まれるなど、医療業界自体の大変革が起こるだろう。

例4:防災分野でのオプトイン

 自身のスマートフォンの位置情報を有事が起きた場合のみ提供することを事前にオプトインしておけば、デジタル防災サービスを受けて自身や家族の命を災害から守れるようになる。出張先や旅行先などを含め、自分がどこにいても、その場所から最も近い避難場所に誘導してもらえるからだ。万が一身動きできない状態になってもレスキュー隊へも位置情報が伝わり、ピンポイントでの救助が可能になる。

 筆者は東日本大震災の復興支援で会津若松に拠点を開設し、スマートシティプロジェクトを立ち上げた。東日本大震災では1万5800人もの方々が命を落とし、いまだに2500人以上の方々の行方がわからない。そうした被災地の経験から、デジタル防災サービスとしては、命を救うためのオプトインを全国へいち早く広げたいサービスだ。会津若松では2021年3月からテスト運用が始まっている。

 例3と例4の2つのサービスは当然、災害時には避難者の医療プロジェクトとしても連携していくことになる。