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スマートシティからスーパーシティへのステージアップ【第4回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年5月20日

先端実証の“PoC祭”にしない

 さらに、スマートシティ/スーパーシティの本質的な目的である「ウェルビーイング(Well-being:幸福)」を追求するプロジェクトにも着手した。デジタル技術を使って人命を救うデジタル防災「マイハザード」や、会津地域全体でヘルスケアに取り組む「バーチャルホスピタル構想」などだ。まち・ひと・しごと創生本部の指針の「ひと」に相当する。

 スマートシティ計画の策定に着手すると、「ウェルビーイング」「シビックプライド」などの実現に一気に向かおうとするケースが多く見られる。だが、市民の多くに賛同してもらうためには、地域の継続的な経済基盤を再生し、市民がその状況に腹落ちすることが不可欠だ。「まち」「ひと」「しごと」の各階層の充実を確実に進め、“働く場”を整備する産業政策が連携していなければならないと考える。

 会津若松市の取り組みを「スマートシティからスーパーシティへ」と題して改めて整理してみたが、これらは連続したスマートシティプロジェクトであることが分かるだろう。スーパーシティは、スマートシティを推進するうえで障害になる各種規制を緩和するための「国家戦略特区」であることを改めて認識する必要がある。

 国家戦略特区であるスーパーシティでは、デジタル化の先端的な取り組みを実装しなければならない。そのためには、確実に実現するために綿密な計画や体制づくりが重要であり、住民の合意も重要な要素になる。そのためには、市民がスーパーシティが実現した後の姿を想像できるようにもする必要がある。

 筆者は今、様々な地域からスマートシティ/スーパーシティに関して相談を受ける。だが、実現したい姿に対して「どんな規制緩和が必要か」ではなく、「どんな規制緩和ができるかを探す」といった本末転倒なことも起きているようだ。スーパーシティが先端実証の“PoC(Proof of Concept:概念実証)祭”になってはならないのである。

健康・医療に関する課題をデータとAIの活用で解決へ

 図2は、会津のスーパーシティ構想の中核プロジェクトである「バーチャルホスピタル会津若松」の全体像だ。まず「現状の姿(As-Is)」を調査し、現状の課題を解決することを「Stage Zero」に位置付けている。そのうえで、さらに取り組むべきテーマと達成したい「目標(To-Be)」を定義している。

図2:「バーチャルホスピタル会津若松」の全体像

 医療問題は、国内のどの地域も抱える大きな課題の1つである。予防医療や未病対策へのシフトは市民の健康寿命を延ばし、医療改革と医療費の抑制も実現する、まさに「三方良し」のプロジェクトだ。

 バーチャルホスピタル会津若松を実現するには、AI(人工知能)を中心とした先端技術の全面的な採用や、これまでの電子カルテの見直しだけではなく、医師会・病院会・薬剤医師会との連携、行政の健康福祉を担当する部門や保険者、民間の保険企業との連携も必要になる。さらには医療関連のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器メーカーとも調整しなければならない。

 そして何よりも重要なのは、市民がバーチャルホスピタル会津若松の目指す医療の在り方に理解・賛同を示し、自身のため、家族のため、次世代のため、そして地域のために実現したい未来に向けて、能動的に参加(オプトイン)することである。市民自身が、まちづくりのキープレーヤーであることの自覚を促し、これらの調整を実現し、事業として成り立たせなければ、ただの実証実験に終わってしまう。

 さらに、「As-Is」から「Stage ZERO」に進むためには大きな判断が必要だ。現状、電子カルテシステムの導入をあきらめている開業医は約4割といわれている。この状況で医療のデジタル化は進められるだろうか。抜本的な対策が必要である。

 「Stage Zero」では、「AI医療クラーク」と呼ぶAI音声認識技術を使った自動入力を計画している。AI医療クラークを実現できれば、医師はPCへの入力業務から解放されるし、電子カルテシステム未導入の開業医はスマートフォンからの入力が可能になる。今後増える訪問診療や訪問介護においても、スマホによる音声入力ができれば、これまで難しかった医療現場のデータ化が進められる。

 一方で市民のヘルスケアデータは現状、ウェアラブル機器や家庭内に設置可能なIoTデバイスを使った収集が可能だ。だが、その整備や普及の進み方はバラバラだ。

 これに対し[Stage Zero]では、多くのデバイスメーカーや生命医療保険会社と連携し市民1人ひとりのデータをヘルスケア用データ連携基盤であるPHR(Personal Health Record)プラットフォームに集めることで、市民の健康にとって有効なサービスを提供することを計画している。同サービスは「AIホームドクター」と名付け、市民にはサブスクリプションモデルで普及させる考えだ。