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未来都市に移住する「グリーンフィールド型」スーパーシティの要件【第5回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年6月17日

同じ自治区の住民サービスは地域で分断できない

 それを浮き彫りにする課題がある。民間主導の開発地域であっても、そのグリーンフィールドは、どこかの自治体の行政区内に存在する。首長や議会からすれば、グリーンフィールドに移住した住民も、ブラウンフィールドに暮らしてきた既存住民も市民であることには変わりはない。その環境下で自治体が抱える共通課題に対するサービスを、ブラウンフィールドとグリーンフィールドで二分できるだろうか。

 例えば、グリーフィールドではロボットがセンサー情報から必要なときにゴミを回収してくれる。ところが一本道を挟んだ既存のブラウンフィールドでは、これまで通り、決められた曜日にだけゴミ回収車が清掃作業にあたる。その際、既存地域の住民が、グリーンフィールド同様にロボットによるゴミ回収サービスの拡大を議会に要望した場合、首長はどのように対応するだろうか。

 1つの回答案は、「ゴミ回収ロボットサービスは民間主導で開発したグリーンフィールドのみのサービスであり、グリーンフィールドの住民は、その費用を負担している。ブラウンフィールドに拡大するためには、行政として大きな初期投資が必要になることが懸念点である」だろうか。だが、これではまちを二分することになってしまう。

 まちづくりを前向きに進める観点からは、「グリーンフィールドのサービスが好評のため、ブラウンフィールドへの拡大を検討する場合は、新たな行政コストを計上し実施することになる。先行投資したグリーンフィールドの住民が、行政が負担して開始するブラウンフィールドの住民サービスと同等になることを受け入れるかが鍵」などと進めていくことも考えられよう。

 グリーンフィールドは民間主導で新しくまちを作る取り組みである。だが、既存の行政区内に存在する以上、ブラウンフィールド同様に自治体との協議・連携が重要だ。自治体の市民中心のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで、自治体は住民や地域を分断してはいけないし、デジタル化で新たに壁を作ってはならないのである。

 だからこそ、新たなサービスはグリーンフィールドで先に提供を始め、その中で公共性の高いサービスの対象地域をブラウンフィールドに拡大していくことを当初より想定し、官民が連携して都市計画に盛り込んでおくことが賢明である。スーパーシティ/スマートシティは民間主導であっても地域主導であることは変わらない。

 筆者は今、複数地域でグリーンフィールドのアーキテクトやアドバイザーを引き受けている。自治体は当然、グリーンフィールドとして民間が投資してくれること自体を歓迎する。だが、今後想定される住民間のトラブルや地域の分断を未然に防ぐルール策定をするための相互理解ができていないケースが散見された。

 それだけに民間事業者と首長に対しては、「グリーンフィールドはブラウンフィールドの中にある」ということを何度も説明し、民間と行政の計画の整合性を取るように強くアドバイスしてきた。両者ともに歩み寄って協議し、地域の共通サービス(非競争領域)と、地域限定の付加価値サービス(競争領域であり市民の自由選択の領域)のレイヤーを整理し、整合性のある都市計画を策定することが重要だ。