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未来都市に移住する「グリーンフィールド型」スーパーシティの要件【第5回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年6月17日

国家戦略特別区域法が2020年秋に改正され「スーパーシティ型国家戦略特区」の枠組みができた。2021年4月には候補地の公募が締め切られた。中には、既存の住民がいない「グリーンフィールド型」のスーパーシティ構想も複数申請されている。今回は、スーパーシティ/スマートシティ構想におけるグリーンフィールド型の特徴や留意点をまとめたい。

 スーパーシティ/スマートシティには大きく2つの型(タイプ)がある。既存の地域をデジタル化・スマート化する「ブラウンフィールド型」と、工場跡地や未開発地域を民間主導で開発する「グリーンフィールド型」だ。

合意のハードルが低く大胆なデジタル化計画が可能

 グリーンフィールド型のスマートシティとは、整備されていない未開発の土地において事業をゼロから開発し、ITを基軸とした街づくりを指す。未開拓で草が生い茂っている空き地のイメージから“グリーン”と呼ばれている。

 グリーンフィールド型の取り組みは、主に中国やドバイなど各種開発を進める国々で盛んだ。国内でも、2020年のCESで発表されたトヨタ自動車が静岡県裾野市の自社工場跡地で進める「ウーブン・シティ」や、パナソニックが神奈川県藤沢市の工場跡地に開発した「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」などが知られる。

 ほかにも計画が公表されている地域には、東京都港区のお台場、大阪市の関西万博の開催予定地域、福岡市の九州大学跡地、神奈川県鎌倉市、愛知県常滑市、沖縄県石垣市の空港周辺の大型リゾート、三重県の多気町を含む6町広域連携など多数ある。

 グリーンフィールド型は新しくまちを作るため、すでに住んでいる住民がいない。サービス内容を許諾した新たな住民を受け入れ、それを入居条件にすることで、住民が100%オプトイン、つまりデータの提供・活用に同意・承諾を得たうえで、大胆なデジタル化を計画できるのが最大のメリットだ。

 計画には、自動運転やドローン物流を含めたMaaS(Mobility as a Service:サービスによる移動)や、オンライン診療を中心としたヘルスケアサービスとAI(人工知能)ホームドクター、エネルギーの地産地消型マイクログリッド(小規模電力網)サービス、デジタル地域通貨決済などが盛り込まれる。

 そして、これらの全サービスを共通IDで連携することで、住民の行動履歴や購買履歴に基づいてパーソナライズされたレコメンデーションサービスが提供されていく。

 グリーンフィールド型は、未来都市に移住するスマートシティだ。そのビジネスモデルは、従来型のニュータウン開発と同等である。地域特性や住宅そのものの付加価値に加え、新たに提供されるデジタルよる都市サービスが、住民がそこに住むかどうかの判断材料になる。

 またグリーンフィールド型は、民間事業者が主導するモデルである。開発事業者は、デジタルにより地域全体や住宅の付加価値を向上させ、その向上した価値をビジネスにする。成功のKPI(重要業績評価指標)は従来の不動産業そのもので、提供するサービスの付加価値がターゲット層に受け入れられ、想定した販売戸数や利用率に達成するかどうかの1点にかかっている。

 ところで、既存の街をスマート化させるブラウンフィールドでのKPIは、提供するサービスへの住民の参加率(オプトイン率)が目標値であり、それを達成できるかどうかだ。両者のビジネスモデルの入り口が大きく違う。

 しかし実際の成否はどちらも、提供する住民サービス次第であることは共通である。サービス提供を開始した後は、住民から提供されたデータをいかに地域経営継続のために活用し、アジャイル的に常に新しいサービスを提供し続けられるかどうかかかっているはずであり、本質は変わらないのではないだろうか。