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未来都市に移住する「グリーンフィールド型」スーパーシティの要件【第5回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年6月17日

地域主導で進める沖縄・石垣市のスーパーシティ構想

 グリーンフィールド型の例として、沖縄県石垣市のスーパーシティ構想を挙げる。石垣市はすでに国家戦略特区の認定を受けているが、改めてスーパーシティ特区として申請することにした。国が造成を進めてきた港の開発を含め、民間事業者が中心になって大型総合リゾート開発に乗り出すことになったからだ。総合プロデュースはプラネットが、建築設計関連は隈研吾設計事務所が、デジタル関連はアクセンチュアが、それぞれのアーキテクトとして担当する。

 計画の概略は、石垣空港の海岸側の広大な土地に大型総合リゾート開発を進めるもの(図1)。CCRC(Continuing Care Retirement Community:高齢者が健康な段階で入居し終身で暮らせる生活共同体)拠点、スポーツ教育拠点、都市部からのワーケーションを含む移住者向け拠点、富裕層向けの住居やホテル、プライベートジェットが発着可能な空港や3Dモビリティ、大型クルーズ船を受け入れられる港の整備を計画している。

図1:沖縄県石垣市のスーパーシティ構想の概略(石垣市スーパーシティ申請書より)

 これらすべてのサービスは共通IDで管理され、オプトインにより、すべての利用者にパーソナライズされたサービスの提供を目指す。総投資額は3000億円程度が見込まれる。石垣市にとっても民間主導で、かつてない規模で進められる開発提案だろう。

 石垣市の計画は完全にグリーフィールド型の民間主導の開発案だ。買収を必要とする土地も民間が所有しており、多くは民間主導で進めることが可能である。

 だが繰り返しになるが本計画立案に向けては、グリーフィールドはブラウンフィールドの中に存在することを関係者会議で何度も議論してきた。申請する区域指定の範囲は、開発計画地域に限定せず、石垣市全島とする結論を出した。開発する住宅エリアには、既存の市民向けのエリアを新たに追加し、地域中心の民間主導のモデルの計画にした。

 巨額を投じる民間開発でも、21世紀型のイノベーションを盛り込むためには、「オープン・フラット・コネクテッド・コラボレーション・シェア」の思想が重要であり、市民主導モデルと変わらぬことを改めて認識するプロジェクトになった。筆者らが人口約12万人の福島・会津若松市で得てきた経験が、離島の大型リゾート開発でも共通の考え方として生きたことになる。人間中心のDXの基本は不変であることを確信した。

日本が進めるべきは住民サービス中心の地域主導型

 世界で進められているスマートシティのモデルを分類すると、自治体主導型、民間主導型、地域主導型とされている。しかし本質論で考えれば、人間中心のDXである以上、基本原則は、どのモデルも変わりがないことに気づく。参入方法のモデルの違いはあっても、実装運用フェーズに入れば住民主導のサービスへと中心テーマが集中することになるからだ。

 日本で進めるべきモデルは地域主導型である。マネジメントモデルも、官民連携の領域横断型サービスの重要性が増し、地域主導モデルへと修練されていくのではないだろうか。この本質をとらえた上で、持続可能なスマートシティ/スーパーシティを実現していかなければならない。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。