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地方でのDX推進に不可欠な「鳥の目」と「虫の目」【第8回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年9月22日

経済モデルの違いが地方にミスマッチを生み出す

 では、地方ではどうすれば良いのか。筆者は現在、ハードルを越えられない残り50%にデジタル決済のためのインフラを普及させるために、デジタル通貨を使用する新たな決済サービスの開発を進めている。その特徴は、クレジットカード決済サービスを未だ導入していない店舗にとってのハードルである次の2つの課題を解決する決済インフラであることだ。

特徴1 :決済手数料の“実質ゼロ円”を実現する
特徴2 :当日の現金化を可能にし、デジタル決済後の現金化までのタイムラグをなくす

 もし筆者が、東京都内だけで暮らしていれば、これらの課題を解決するためのサービスの開発を思いつくこともなかっただろう。移住前の筆者は、デジタル決済インフラが地方都市でも都心部と同じように普及しているものだと思っていた。読者の中にも、地方出張でタクシーに乗ったときに当たり前のようにクレジットカードを差し出したり、キャッシュレスで支払おうとしたりした方は少なくないだろう。

 よく「地方は遅れている」と言われるが、決して遅れているわけではなく、都市部と地方では経済モデルが異なるためにミスマッチを起こしているのである。例えば地方では、大手チェーン店以外では、安価なものを数多く売る“薄利多売”ビジネスは成り立たない。これまで東京発の“トップダウン型”での導入が失敗してきたのも、このミスマッチが大きな原因ではないだろうか。

 薄利多売が成立しない地方では、決済代行業のような手数料ビジネスは地域の隅々まで普及しない。無理に参加を促せば、地方の経常利益をさらに悪化させるだけだ。こうした現実を理解できなければ日本全体のDXが成功することはない。

 以前、キャッシュレス決済を進める経済産業省の責任者と意見交換した際には、導入店舗には国の予算で5000ポイント付与することで、地方への普及が一気に進むものと考えていたものの、実際は、なかなか受け入れられないことが分かったということを聞いたことがある。その責任者は、担当者全員を地方に派遣し、実態調査や現地での支払いを体験させたという。この経験は必ず今後に活かされると期待したい。

国内共通サービスを一気に導入するのは混乱の元

 実際、コロナ禍にあって我々国民は、日本のデジタル化の遅れを痛感し、使いづらいシステムを数多く体験した。これらをデジタル庁が徐々に解決していくことを期待するものの、どこに原因があるかを見誤ると、大きな失敗を繰り返さないとも限らない。

 例えば、新型コロナウイルスのワクチン接種記録は国が管理する「ワクチン接種記録システム(VRS)」に集められている。政府もワクチン接種のデジタル証明書を年内も発行できるよう検討を始めている。であれば証明書の発行はマイナポータルから提供されると考えるのが自然だ。ところが、そう一筋縄にはいかない。VRSの情報には、ある程度の誤入力が存在しているからだ。

 ワクチン接種券などの配布当初からデジタル庁が介在し、設計に関与していれば実態は違ったかもしれない。だが実際には、配られた接種券や接種券に記載されたバーコード規格などが自治体により異なっている。そのため、VRSへのデータ入力はOCR(光学文字認識)や手作業などに依存しており誤入力が発生し得る。どれだけ自治体の職員が注意を払っても、仕組み自体がデジタル化されない限り誤入力が発生してしまうのは当然だろう。

 さらに、国全体で共通するサービスを一気に導入するのは混乱の元だ。先にも述べたように筆者は、地域での実証結果や実績を踏まえたうえで全国展開すべきだと考えている。

 「誰一人、取り残さない」ことを日本のデジタル化で目指すのであれば、地方都市を中心に実証事業を実施し、その成果を全国に広げて実装していくという“ボトムアップ型”のサービス導入が望ましいことを実体験から感じている。

 新しいサービスが普及しないのなら、その明確な理由を見出したうえで、全員が参加できるように課題を解決し、その実現に必要な新技術を導入しなければ全く意味がないことを肝に銘じる必要がある。