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地方でのDX推進に不可欠な「鳥の目」と「虫の目」【第8回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年9月22日

ワクチン接種のデジタル証明を全国に先駆けて実証

 実践例として、筆者が代表理事を務め、会津に拠点を置く一般社団法人スーパーシティAiCT(アイクト)コンソーシアムは、会津若松市と連携し、会津若松市民を対象にした新型コロナウイルスワクチンの接種記録をデジタルで確認できるサービスの実証を全国に先駆けて9月下旬から順次開始する(関連記事『会津若松市、新型コロナのワクチン接種記録確認サービスを実証へ』)。

 本実証では、市民や事業者の協力を募りながら、サービスの利点や欠点、システム運営上の留意点をあぶり出す。そのために先陣を切っての先行実証を申し出たのだ。会津若松市での実証結果を踏まえ、政府や他地域に広く情報発信していく予定である。

 また会津若松市はスーパーシティ計画の中で「バーチャルホスピタル構想」を打ち出している。文字通り“町全体が病院”という考え方で、データに基づく予防医療の実現を目指している。医師がどこにいてもオンラインで診断できるようになり、訪問診療への効果が期待している。

 バーチャルホスピタル構想の課題は、前述したカード決済インフラの普及と同様、電子カルテシステムの普及状況である。状況調査では、200床以下の病院では40%程度が「電子カルテシステムの導入を予定していない」と回答している。健康や医療に関係するすべてのデータを収集しなければならないにもかかわらず、その中心である医療現場からデータを収集できないのが実態だ。

 日本の医療のデジタル化を図るには、現場の状況を十分に理解し、徹底的にデータを収集できるようにするためのDXが重要になってくる。そのため筆者らは、既存のPC画面で入力するタイプの電子カルテシステムを根本的に見直し、スマートフォンがあれば音声認識によるデータ入力が可能な「AIクラーク」の推し進める方針である。

トップダウン型の全体最適化は地域の自主性・自律性を削ぐ

 これまでのIT導入は、トップダウン型で日本全国に同等のサービスを普及させるという考え方で進められてきた。結果、地域の現場では実態との不整合が起き、導入が進まない状況が繰り返されてきた。そうした中で、それぞれの現場が独自の対応を始めれば、新たなシステムまでが今以上にバラバラになりかねない。

 地域のスマート化には、全体感に立ったビジョンで考える「鳥の目」と、実際に現場でプロジェクトを進める「虫の目」の両方の役割が必要だ。デジタル庁が発足した今、国内で本質的かつ双方向なDXが進むことを期待している。筆者らも現場から成果を拾い集め広めていきたいと考えている。

 大都市での成功は地方都市にはそのままでは普及しない。トップダウン型の全体最適化を進めれば、地域の自主性や自律性を失い、目指すべき自立分散社会が成就することはない。そのことを肝に銘じ、人間中心、地域主導のDXを進めていかなければならない。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。