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地方でのDX推進に不可欠な「鳥の目」と「虫の目」【第8回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年9月22日

2021年9月1日にデジタル庁が創設された。官民の優秀なアーキテクトたちが東京から全国の各種システムのアーキテクチャーを一新することになる。デジタル庁の成功は日本の再生と同義であり、その成功に少しでも寄与できればとの思いから、筆者が日々進めている地域DX(デジタルトランスフォーメーション)サービスの実施状況をすべて伝えていきたい。今回は、日本の70%以上が地方都市であることを踏まえたうえ、大都市と地方都市の違いを説明したい。

 筆者はこの10年間、福島県会津若松市に居を構え、同市のスマートシティプロジェクトを進めている。東京や他の地方に出張した際などは、スマートシティの地域特性を活かすために、各地で共有できる領域を見定めてきたつもりだ。そのきっかけになったエピソードの1つを紹介したい。

地方の決済サービス普及率が50%止まる理由

 筆者らは2011年8月、震災復興支援として会津若松市での活動を開始した。初期のプロジェクトがひと段落した際の打ち上げを同市内の飲食店で行った。コロナ禍の今では考えられないが、約20人が参加しての宴席だった。

 夜も更けて会計を店主に申し出てクレジットカードを差し出した。店主の答えは「申し訳ありませんが取り扱いは現金のみなんです」。私は、その飲食店から少し距離のあるコンビニエンスストアまで走り、現金をおろして支払いをした。

 別の日、2次会で訪れた店舗の支払いでは、「現金だと○○円、カードだと●●円になります」と違う金額を提示された。筆者は、ガソリンスタンド以外で現金とカードの支払い額が異なる店舗があることを、この時、初めて知った。

 現金決済しかできない町では到底、インバウンドの受け入れはできない。「これはスマートシティの一環として解決していかなければならない」と認識し、スマートフォンを使った簡易なクレジットカード決済サービスの導入を進めることにした。

 商工会議所にサービス普及のメリットを話し、信用組合と一緒に地域の店舗を回って導入を促した。インバウンドを含めた観光客や交流人口を受け入れるためには、最低限の決済インフラを整える必要があったからだ。20%程度だった加盟店数も50%程度にまで増やせたのだが、その普及は50%でぴたりと止まってしまう。

 「地方はデジタル化が遅れている」と言われるが、50%以上に普及するには、実は全く別の原因がある。地方でのデジタル決済導入においては、決済手数料や現金化されるまでのタイムラグが大きなハードルになっていることだ。

 東京であれば、新たな技術を使った民間サービスが次々と提供され、常に利便性が向上している。需要が多く見込める都市部では、小売店なども新たなサービス導入に伴う手数料の支払いを許容できるし、新たなサービスの提供が競争領域にもなるため、多くの店舗が率先して参加するからだ。