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日本のデジタルイノベーションに向けて乗り越えるべき3つのポイント【第10回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年11月18日

課題2:個人情報保護法への対応

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の中核はデータ活用である。そこでは、個人情報保護の観点から不安を感じる人の懸念を丁寧に取り除きながら活用を検討する必要がある。その点で会津若松は、オプトインの方法論を導入することで個人情報保護法には触れないデータ活用を推進してきた。

 例えば、市民向けポータルサイト「会津若松+(プラス)」は、オプトインしない場合は情報がパーソナライズされる機能は働かない。だが、情報提供サイトとしては誰でも利用できる。

 オプトインすればパーソナライズ機能が使えるし、オプトインしない市民も一般的な機能は利用できるようにすることで、市民の一人ひとりが自分のデータを「どの程度提供したいか」を主体性をもって選択でき、それに合わせたサービスが受けられると考えている。すべては市民の選択である。

 政府が進めるスーパーシティにおいて、その申請には住民合意が重要である。会津若松市が数回実施したアンケートでは、市民の8割が賛成との回答を得られている。2割の市民が個人情報保護法を理由に反対した。しかし、個人にパーソナライズされたサービスを受けるか受けないかは、オプトイン方式においては市民の選択に委ねられている。

課題3:マイナンバーの限定的な活用範囲

 マイナンバーは現在、社会保障・税・災害対策の3領域だけで使用可能とされている。しかし本来は、すべてのサービスで使えるようにすべきである。活用の幅が広がれば、市民だけでなく行政関係者にとっても利便性が向上するはずだからだ。

 ところがマイナンバー法を成立させる際に、「国民を監視する社会になるのではないか」という少数の反対意見により、活用領域を限定してしまった。そのため、第9回で解説したような、行政を信託した複数領域横断型の行政DXを進める環境になっていない。

 そしてこの1年半、多くの国民はコロナ禍で、各種手続きの不便さを認識したことだろう。行政や医療も含めた地域サービスのすべての領域でマイナンバーが活用できれば、日本のデジタルサービスは一気に進むことだろう。会津若松市はスーパーシティの申請内容に「マイナンバーの活用領域の拡大」を要望として提出している。

 デジタルイノベーションを阻害する3大要因において、その根底に共通して存在する原因は、少数の反対意見を配慮するあまりデジタルイノベーションを止めてきたことにある。その結果、日本はイノベーションが起きにくくなってしまった。

 それぞれの解決策として示したように、デジタルイノベーションにおいては、「推進」と「配慮」を分けて考え、双方への対策を打つことで進めるべきだろう。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。