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在宅化が進むコンタクトセンターの成功要件【第2回】

中野 正人(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長)
2021年7月14日

コロナ禍があぶり出した日本企業の業務課題において、リモートワークの問題は重い意味を持っているのではないだろうか。コンタクトセンターは従来、「センター」という名称からもわかるように、大きめのフロアにオペレータ居並ぶ光景が一般的だった。しかし、そうした光景も徐々に、過去のものになりつつある。今回は、在宅コンタクトセンターの事例を挙げながら、アフターコロナには一般化するであろう在宅型のコンタクトセンター像を探ってみたい。

 2020年に弊社に寄せられたRFP(提案依頼書)のほとんどすべてに「在宅勤務」や「オペレーターの在宅化」といった文字が記載されていたことは、筆者の印象に強烈に残っている。「在宅型コンタクトセンター」については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の登場以前は、ほとんど話題にすらならなかったにもかかわらずだ。

 COVID-19以前も「Home Agent(在宅エージェント)」というコンセプトで、在宅コンタクトセンターを紹介する局面は何度かあった。だがHome Agentに対して日本企業は懐疑的で、在宅のデメリットに関する情報ばかりを収集し、自社内で推進しないための理由を探していたのが実際だった。

 しかし局面は大きく変わった。もはやグローバルだけでなく国内でも在宅コンタクトセンターは一般的になりつつある。在宅化の課題を考える上で、まずはいくつか事例を紹介する。

事例1:東京個別指導学院=BCP対策がコロナで奏功

 東京個別指導学院は、ベネッセグループの一員として主に小中高生を対象に直営の個別指導教室を運営している。2019年12月から、クラウドを念頭に選定したコンタクトセンターの次世代基盤を運用している。中長期的なBCP(事業継続計画)の観点から在宅勤務も視野に検討してきたものだ。

 新基盤の導入は、PBX(構内交換機)のクラウド化やネットワークインフラの刷新などの検討と並行して実施された。BCP対策が主眼だった基盤の始動は、くしくも世間がCOVID-19でざわつき始めた時期に重なり、新基盤の特徴である在宅勤務体制へのシフトが、いち早く実施できた。

 在宅勤務の基盤整備により、COVID-19対策だけでなく、結婚・出産を機に時短勤務に切り替えていた豊富な知識を持つ女性の学習相談員の、フルタイムで勤務したいという要望に応えることができている。

事例2:ブラザー販売=事業継続の最低ライン3割を在宅化

 ブラザーグループの国内のマーケティングカンパニーとしてブラザー販売は、プリンターやミシンなどを販売している。そうした製品のサポート業務を担うのが同社のコンタクトセンターだ。

 同センターでは2020年4月後半から徐々に在宅運用を開始した。一カ月半ほどで対象オペレーターの在宅シフトを完了し、センターとのハイブリッドで運用している。在宅オペレーターの割合は、事業継続の最低ラインである「3割」に設定。個々人のスキルや自宅の執務環境から対象のオペレーターを決めた。

 在宅のオペレーターはVPN(仮想私設網)を使ってシステムに接続し、センターとほぼ同じ執務環境で業務に就いている。ただ在宅では、物理的にサポートやエスカレーションができない。そのため、ユニファイド・コミュニケーション機能を使って、オペレーターがサポートをリクエストできるよう運用ルールを整えた。

 さらに、VIP専用サービスとして予定していた「コールバック予約」機能の提供を一般ユーザーにも対象を広げて開始した。電話がつながりにくい際は、問い合わせ用件と共にコールバック予約を受け付ける。利用者の約8割が再利用を希望するなど、サービスを補完する以上の成果が生まれているという。