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CX向上に向けコンタクトセンターに浸透するAI技術【第3回】

中野 正人(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長)
2021年8月31日

前回まで、コロナ禍にあって集団勤務を避ける形での在宅化を中心に事例を紹介してきた。しかし、これらの変化は目に見える現象のほんの一部であり、本質的ではない。コロナ禍ではエンドユーザーのライフスタイル自体が大きく変化しており、それに伴ってコンタクトセンターに求められる機能や対処能力も変化しなければならないからだ。今回は、そのための技術革新の中核をなすAI(人工知能)技術の動向を紹介する。

 私見ではあるが、後に2020年を振り返った時にはおそらく「この頃に実用レベルのコンタクトセンター関連AI(人工知能)ソリューションが次々に登場したのだなぁ」と思い出すのだと感じている。

 ここで「実用レベル」というのは、それ以前のAIソリューションが、一定レベルまではユーザーフレンドリーのように見せかけながらも、継続的に利用するためには、統計学や機械学習の概念に精通した人材を必要としてきたからだ。

 むろん2021年時点でも、原理的には、機会学習などに精通したレベルの人材が関与しモデルの良否を判断しなければならない局面はあるだろう。しかし、少なくとも日常ベースでは、アルゴリズムにまで立ち戻らなければならないような“使い勝手の悪さ”はおおむね目に付かなくなってきた印象だ。

コンタクトセンターにおけるAIの守備範囲が広がる

 そうしたコンタクトセンター関連のAIソリューションを利用目的の別に大別すると、2021年8月時点では図1のようになるだろう。もっとも、AI技術はなおも技術革新が進展中であり、冒頭で2020年が変革点といった表現をしたものの、今後も図1の3分野には収まらない領域に、様々なAI技術が浸透していくはずだ。

図1:コンタクトセンター関連のAI技術の守備範囲

 以下、図1にある3つのカテゴリーについて大まかに説明する。

領域1:良いCXをもたらすためのAI

 コンタクトセンターの役割は、従来にも増してCX(Customer Experience:顧客体験)を高めることに集中していくだろう。AI技術の活用領域においても、CXの向上に振り向けるソリューションが増えている。

 本領域の代表例が、(1)AIルーティングと(2)エージェントアシストである。

 (1)AIルーティングは、顧客とオペレーターの最適な組み合わせをはじき出しルーティングする仕組みである。そのために、システムが把握できうる限りの顧客とオペレーターそれぞれの最新かつ最小粒度の情報をマッチングさせる(図2)。従来のルーティングでは、個々人のスキルやIVR(自動音声応答装置)のキューなど非常に粗いメッシュで両者をマッチングしていた。

図2:AIルーティングにおける相性を考慮したマッチングの例

 言い換えれば、最高のCXの発生頻度を従来の“偶発的”から、より人為的に高める仕組みである。コンタクトセンターを運営する企業/部署からは「相性でルーティングするような仕組みはないのか」というニーズは強かった。これまではベンダーとして適当にはぐらかすしかなかったが、ここに来てAIルーティングの潜在能力は、顧客とオペレーターの“相性”に近い組み合わせを実現できるまでに高まってきた印象だ。

 一方の(2)エージェントアシストは、あたかも多方面の業務知識に精通したベテランオペレーターが応対しているかのようなCXを提供するための仕組みである。そのために、顧客とオペレーターの会話内容を文字起こししたテキストデータ(チャットの場合は元も文字データ)から文脈をAIシステムが理解し、顧客応対に最適なフレーズやキーポイントをオペレーターの画面上に次々と表示する。

 同様の仕組みとしてこれまでも、応対中にFAQ(よくある質問と答)システムを参照し受け応えするものがあった。だが従来は、フレーズをタイピングする手間を省くことが困難だった。

 その点、エージェントアシストは、会話の流れに応じて自動的にトピックの候補を次々に提案してくるため、オペレーターは顧客との対話に集中できる(エージェントアシストによる顧客対応例の動画)。