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「コンタクトセンター運用を容易にするためのAI」の提供価値(基盤用AIその2)【第5回】

中野 正人(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長)
2021年12月1日

使えば使うほど呼量予測の精度は高まる

 コンタクトセンターにおけるWFM(Workforce Management)、すなわちオペレーターの適正配置において、最も重要なことは、呼量予測と、それに基づく適切なシフト管理だろう。これまでは「月曜日の午前中はコールが多い」「月末は呼量が多いのでオペレーターのシフトを増やす必要がある」などと、管理者が過去のデータと“勘と経験”から予測してきた。

 過去のデータと、天気や曜日などの外的要因を、どのように組み合わせるかは管理者が「これは因果関係がありそうだ」という予測と思い込みで決めている。しかし人間は、呼量に影響を与える可能性がある外的要因のすべてを予測に取り入れるのは不可能だろう。

 これに対しAIシステムでは、呼量について一定期間の実績データがあれば、そこから呼量が増減するパターンの特徴を導き出し、高い精度での予測ができる(図2)。数十個もの予測アルゴリズムを同時並行で実行することで、様々な要因の影響を予測に反映でき、自社の商品/サービスの特性に合ったパターンを見つけられる。

図2:AI技術を適用したシフト管理の例

 さらに、そのパターンのベースに、モデルをさらにトレーニング(学習)することで予測の精度を高めらえる。トレーニングについては現時点では、人間が関与する必要があるが、将来的には、トレーニングの自動化が進んでいくと考えられる。

 運用期間が長くなればなるほどデータは蓄積され、AIシステムのトレーニングが進み、予測精度が向上していく。“使えば使うほど良くなっていく”点が現代の深層学習(Deep Learning)の醍醐味だ。つまり、AI技術の適用は早ければ早いほど良いということになる。

会話内容のテキスト化でオペレーターの能力を把握する

 WFMの実行においては、オペレーターの能力を正しく把握していることが前提になる。そのために活用できるのが、前回でも紹介した、通話内容(アナログデータ)のテキスト(デジタルデータ)化だ。

 具体的には、オペレーターが話した全文をテキスト化し会話の流れを評価し、初回解決率や顧客満足度などの運用データを組み合わせることで、オペレーターの能力を把握する(図3)。オペレーターの得手不得手を把握できれば、ポイントを絞ったトレーニングの提供や、個別ミーティングによるコーチングなどによって、能力の向上を図れる。

図3:音声をテキスト(デジタルデータ)に変換することで、種々の分析が可能になる

 最近では、ゲーミフィケーションの機能を備えた仕組みも存在する。初回解決率や顧客満足度、シフトの安定度などをスコア化し、オペレーター同士が競い合えるような場を提供する。AIシステムが機械的に評価することで中立性が保たれ、ゲームに参加しやすいというメリットがある。

 さらに重要なのが、成績が良いオペレーターの能力をセンター運営にフィードバックすることだ。テキスト化した会話記録を解析することで、初回解決率や顧客満足度のスコアが高いオペレーターが何を話しているのか、会話のパターンはどのようなものかを見つけ出す。それをオペレーターアシストに反映させたり、他のオペレーターへのトレーニングに組み込んだりすることで、センター全体の効率を高められる。

 シフト管理への適用も有効だ。成績の良いオペレーターをバランス良く配置することで、センターの対応能力を平準化できる。すべてのオペレーターの基本データがあれば、オペレーターの急な欠勤にも迅速に対応できる。