- Column
- 新たな顧客接点を創出するコンタクトセンターの姿
「コンタクトセンター運用を容易にするためのAI」の提供価値(基盤用AIその2)【第5回】
NGワードを検出しコンプライアンス遵守を徹底
近年のコンタクトセンター運営では、コンプライアンスの遵守も大きなテーマの1つである。上述した「良い会話」の裏返しではあるが、オペレーターが不必要な言葉や、悪態など不適切な単語を発していないかを、会話内容を全文テキスト化しAIシステムが常時モニタリングし検知する。
実際、海外の金融機関などでは「利益を約束します」「絶対儲かります」などの単語が確認されると、その通話は即座に遮断されスーパバイザーに転送されるという仕組みを取り入れているケースがある。この場合、スーパーバイザーはすぐにオペレーターの発言を取り消し、顧客の誤解を招かないように対処する。不適切な説明による顧客の不利益を回避するための措置だ。
コンプライアンス順守のためのモニタリングのほかにも、隠語を検知している例もある。海外の事例だが、証券取引におけるトレーダー同士の会話に対し、通常業務で使わないような単語が使われた際に、前後の会話と、そのトレーダーによる取引を照合する仕組みが取り入れられている。天気の話や家族の話など、取引とは本来関係がない言葉で、「売り」や「買い」を示唆している可能性があるためだ。
日本においても今後、金融系のコンタクトセンターなどでは、こうした取り組みが増えていくと予想される。
人間にしかできない仕事に専念するために
ここまで説明してきたような、オペレーターと顧客の会話を評価し、そこから「良い会話」と「悪い会話」をほぼリアルタイムに見分け、センター運用にフィードバックしていくという作業は、人間が正確かつ継続的に行うことは、とうてい不可能である。こうした作業をAIシステムに任せることで、時間の短縮や正確性の向上に結びつけられる。
一方で、それらの結果を吟味し、オペレーターの能力向上やセンター運用の効率化につなげることは人間にしかできない。AI技術の活用によってスーパバイザーや管理者に時間の余裕ができれば、オペレーターのトレーニングやコーチング、AIシステム自体のトレーニングなど、人間にしかできない仕事に専念できることになる。
初期のAIシステムは、アナログのシンセサイザーのように、スイッチやダイヤルの塊だった。調整すべき項目が多岐にわたり、素人の手に負える代物ではなかった。それが最近は、コンタクトセンター専用のAIシステムなどが発表されている。
コンタクトセンター専用のAIシステムでは、パラメーターや機能がコンタクトセンター業務用に予め調整されており、特別な設定なしに、ある程度までは使えるようになっている。一種の“割り切り”とも言えるが、利用目的が明確であれば導入のハードルは低いほうが良い。
予測精度を高めるためには、導入後もAIモデルのトレーニングは必要だ。それでも、ある程度の成果をすぐに見込めることのメリットは大きい。音声認識についても、日本語の認識精度は英語と遜色ないレベルにまで高まってきている。
AI技術をコンタクトセンターに導入できる環境は近年、急速に整ってきた。それどころか、データの蓄積やAIモデルの精緻化にかかる時間を考えれば、AI技術の導入は、先にも述べたように、早ければ早いほど良いというフェーズにあると言えるだろう。
次回は、コンタクトセンターのシステム基盤への搭載が進むAI(人工知能)技術の3つのカテゴリーのうち、最後の「売り上げ向上/販売機会損失防止のためのAI」について解説する。
中野 正人(なかの・まさと)
ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長。SAPジャパンや日本マイクロソフトを経て2011年にジェネシス入社。ビジネスコンサルタントとして顧客のコンタクトセンター成熟度調査や、その結果に基づくコンタクトセンター高度化プランを多数立案してきた。海外組織とのパイプを生かし、事例情報の収集や海外視察ツアーの企画などに取り組む中で得たコンタクトセンターの将来像に関する幅広い知見を顧客へのコンサルティングに生かしている。