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  • 移動サービスを生み出すデータの基礎知識

移動に関わるデータの過去、現在、未来【第1回】

元垣内 広毅(スマートドライブ 取締役)
2021年8月30日

スマホへのGPSの標準搭載が移動データの利用範囲を拡大

 2000年代も後半に入ると、携帯電話にもGPSが搭載され、特別な機器を用いなくても移動データの計測・利用が可能な時代が到来します。なかでも、iPhone/Android端末が誕生し、GPSを標準搭載するスマートフォンが急速に普及したことで、GPSのデータを利用するアプリケーションが次々に誕生しました。

 基本ソフトウェア(OS)が標準で持つ仕組みを利用することで、GPSの位置情報は誰もが取り扱える情報になりました。これが、スマホで各種サービスを展開するアプリケーションデベロッパーを中心に、特定の事業者に閉じることなく、位置情報をはじめとする移動データの計測が飛躍的に広がるきっかけを生んだのです(図2)。

図2:スマホへのGPS(全地球測位システム)機能の標準搭載によりGPSデータを利用するアプリケーションが飛躍的に増えた

 今では、地図上で現在地と目的地を指定すれば経路を誘導してくれる経路案内や乗り換え案内、走った軌跡や距離、時間やペースから健康な生活習慣を維持するためのサポート、ダイエット含む体調管理など様々なスマホアプリが、位置情報などの移動データを基礎情報として利用しています。

 このスマホによる移動データ活用の大きな変化は、2020年を前に「100年に一度の大変革期」と称された自動車業界にも伝播します。「CASE(Connected:ネット接続、Autonomous:自律運転、Sharing:共有、Electric:電動化)」への対応が世界規模でホットトピックになり、自動車メーカー等を中心に、車両への通信機能の標準装備や自動運転、EV(電気自動車)などへの対応が一気に加速しました。

 カーナビを搭載済みの自動車において「Connected」による通信機能の標準搭載は、GPSを標準搭載したスマホ同様に、移動データ活用の幅の拡大を意味します。これにより、従来の自動車産業外からのサービスプレイヤーが、自動車向けサービスの開発に参入し、移動データを収集・活用した新たなサービスの創出が本格化します。業界外からの新たな移動サービスは逆に、自動車業界におけるCASEやMaaSの世界観を変える原動力にもなっています。

 特に、ライドシェアをはじめとするモビリティサービスは今や、世界中の様々な街で日常的に利用されるまでに広がりました。東南アジアのGrabのように、衣食住に関わる様々なサービスと連携し、決済サービスまで提供する「スーパーアプリ」を提供する企業も誕生してきました。それはもはや、移動だけにとどまらず、生活インフラと言えるほどに成長しています。

 こうしたモビリティサービスを提供するプレイヤーの隆盛は、その裏にGPSなどで取得した移動データや、決済データなど様々なデータが飛躍的に集められるようになっていることを意味します。彼らは、それらビッグデータを活用するための最先端技術を積極的に取り入れるなど、データ活用領域の技術革新においても存在感を高め、世界をリードする勢いをさらに増しているのです。