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- 移動サービスを生み出すデータの基礎知識
移動に関わるデータの過去、現在、未来【第1回】
デジタルトランスフォーメーション(DX)への関心の高まりを背景に、ヒトやモノの移動に関連した様々な情報をデータとして収集・活用する動きが広がっています。移動データの活用場面は急速に広がり、我々の生活に密着した情報になりつつあります。今回は、移動データの活用に関する歴史的変遷をたどりながら、移動データ活用の現在地点と、その可能性について考えてみます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、移動データそのものに触れる機会が日常化しました。行楽地の人出の状況や人の流れの推移を表した数値、感染者の移動経路に関する情報などが、テレビや新聞、Webメディアなどで日々、報道されています(図1)。
混雑状態をリアルタイムに可視化し発信することで密集を回避できれば、COVID-19の感染リスクを低減させられる安心・安全につながる情報として今後も、身近な存在になっていくでしょう。こうした人手や人の流れといった情報は、スマートフォンから収集した位置情報データに基づくものです(図1)。
移動データのデジタル化が進み急速に身近な存在に
移動データというと、移動軌跡などを示すビッグデータから新たな知見を発見したり、最適な移動手段やルートを提案したりと、テクニカルな話や最先端の話に聞こえるかもしれません。しかし、移動に関するデータを記録し、生活の中で役立てていくという取り組みは、最近になって始まったわけではありません。
例えば、1830年代にはイギリスでダイヤによる鉄道の運行管理が始まりました。そこでは列車の移動時間を計測し、その実績データを見ながらダイヤを組んでいくという活用が行われています。
このような移動データの活用は、特にヒトやモノを運ぶ運行サービスを中心に、世界中に浸透していきます。日本国内で移動データの計測が広まる契機になったのは1960年代に一部の車両からタコグラフが普及し始めたことがあります。商用のバスやトラックなど、いわゆる緑ナンバーの車両での運行記録が義務付けられたためです。
その結果、法定三要素の「速度、時間、距離」が、当初はアナログでの計測ではありましたが、運行記録として残されるようになりました。その移動データは、各種制度の後押しを受けながら、安全運転管理や労務管理に活用されるようになります。
一般消費者にとって、移動データを身近な存在にした最初の契機は、カーナビの普及でしょう。1990年代のGPS(全地球測位システム)搭載型のカーナビの誕生です。運転している車の現在地の位置情報をその場で取得し、周辺の地図情報と共に表示したり、目的地を設定すれば現在地からの経路を検索し、ナビゲーションしたりと、今では当たり前のドライバー体験ができるようになりました。
この頃になると、運送事業者等の大型車両が搭載するタコグラフも、のアナログ式の、いわゆる「アナタコ」に加え、デジタルにデータを記録する「デジタコ」が実用化されます。移動データが自動的にデジタルデータとして記録できるようになったことで、移動データの活用を加速させる土台が生まれてきたのです。
2000年代の前半頃には、VICS(道路交通情報通信システム)の整備と共に、多くの車両から計測される、いわゆる「プローブデータ」の収集が加速していきます。プローブデータは即時に処理され、鮮度の高い渋滞情報などの交通支援情報がカーナビに提供されるなど、よりリアルタイム性を求める移動データの活用例も登場してきました。