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  • 移動サービスを生み出すデータの基礎知識

移動に関わるデータの過去、現在、未来【第1回】

元垣内 広毅(スマートドライブ 取締役)
2021年8月30日

ネットビジネスの世界などではデータ活用が先行

 このように移動データは、我々の生活を支えるサービスの裏側に浸透してきています。一方で、我々自身が普段の生活や日常業務の中で、移動データに触れ、意識的に活用しているかといえば、企業内外の取引データやマーケティングデータなどの活用と比較すれば、ほとんど馴染みがないのではないでしょうか。

 今や書店に行けば、データ活用のノウハウ本が多数、ビジネス書のコーナーに並んでいます。それほど事業会社における日常業務においては、データを活用する仕組みが当然のように実装され、その価値は広く認知され市民権を得ているのです。

 中でもネットビジネスの世界では、提供するサービスへの来訪ログなどを簡単かつ正確に取得する仕組みがあり、訪問ユーザー数や再訪率などの指標を元に可視化し、その結果をサービスの改善や意思決定につなげるというデータの活用方法は、Webサービスの運営担当者やマーケティング担当者にとっては典型的な業務の1つになっています。

 営業活動においても、マーケティング支援ツールやRPA(Robotic Process Automation)ツールの採用が広がっています。ある商材の広告メールを送ったら、興味を示してリンクをクリックした顧客情報が営業担当者に自動で通知されたり、Webサイトを訪れた顧客が既存顧客か否かをリアルタイムに判別し過去の閲覧履歴からお薦め商品をしたりといったことは、必ずしも専門家の助けがなくても実行可能になってきています。

 こうしたネットビジネスでのマーケティング領域では、業界全体のデータ活用リテラシーが高まり、新たな領域へ挑戦する意欲も加速していきます。結果、データ活用技術そのものも高度化し、AI(人工知能)技術や機械学習技術など先端的な技術を取り入れた仕組みやサービスの実用化が進みます。

 これに対し移動データは、多くの一般企業においては、そもそも移動データをどのように計測するのか、仮に移動データが計測・収集できても、どのように活用すれば良いのかなどについては、確立した方法論もなければ、便利なハウツー/知見も、ほとんどないのが実状です。

 例えば、多くの車両を保有し営業活動で日常的に利用している一般事業会社は少なくないと思いますが、移動データの活用を前提に、営業車両などの移動データを計測し、業務において活用しているという体験自体、ほとんど馴染みがない企業が、ほとんどと言っても過言ではないでしょう。

シンプルな課題解決から始めるのが移動データ活用の第1歩

 移動データはこれまで、データの活用という意味では、まだまだ遠い存在でした。しかし、スマホやCASE対応が進む自動車、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスの普及と、それに伴うモビリティサービスプレイヤーの技術革新により、自らが収集・管理・活用できる、より身近なデータへと変化してきました。

 インターネットの世界だけでなく、リアルな世界での移動データについても、データ計測やデータの取り扱いのハードルは下がっています。一般の事業会社の業務において、誰もが移動データを取り扱えるほどに移動データの“民主化”が進めば、ネットビジネス/デジタルマーケティングの世界で新たな価値が創出されてきたように、移動データ活用の可能性を想像することは難しくないでしょう(図3)。

図3:移動データの“民主化”が進めば、移動データ活用の可能性も高まる

 ただ1960年代からの商用車での移動データの活用例に見られるように、現場の課題にしっかりと向き合えば、移動データを可視化するだけでも、大きな価値を生める可能性はあります。移動データの活用方法としては、地に足をつけた堅実なところを出発点に、現場の創意工夫により、従来にない価値を創出できるのです。

 AIやDXのブームの中でデータ活用といえば、複雑だったり高度なテーマを設定したりしなければならないと想起するかもしれません。ですが、まずはシンプルに課題を解決していくという視点で、移動データの活用にトライされてはいかがでしょうか。

元垣内 広毅(もとがいと・ひろき)

スマートドライブ 取締役。大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程にて統計解析を専攻。統計的機械学習領域で博士号(工学)取得。有限責任あずさ監査法人にて公認会計士業務に従事した後、グリーに入社し、各種データ分析業務を担当。2015年1月にスマートドライブ入社。執行役員を経て、2018年12月より現職。現在はデータプラットフォーム事業を中心にデータ解析領域の技術開発及び事業開発を担当している。