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車から移動データを取得する手段とその中身【第3回】

山本 剛央(スマートドライブ モビリティデータコンサルタント)
2021年10月25日

移動データは集計・計算でより多くの実態を示す

 種々のデバイスで取得できるデータは、いずれも非常にシンプルです。しかし、これらデータを集計したり計算したりすれば、表2に挙げるように、移動に関する「When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(なにを)、Why(なぜ)」といったことが分かります。

表2:移動データが示す5つのW
項目内容
When(いつ)・いつ自動車が動いているのか
・1ヶ月で何時間自動車が動いているか
・1ヶ月で何台自動車が動いているか
・何時台に自動車が動いていることが多いか
Where(どこで)・どこのエリアで
・どの拠点で
・目的地はどこが多いか
Who(だれが)・どの自動車が
・誰が (機器と運転者情報の紐付けが必要)
What(なにを)・どのくらいの時間訪問先に滞在しているか
・どこでアイドリングをしているか
・速度が出過ぎていないか
Way(なぜ)・移動の目的はなにか
・走行距離が多い理由はなにか
・深夜帯に走行が発生している理由はなにか

 実際には、各種デバイスで取得したデータは、走行開始位置と時間、走行終了位置と時間などを計算・集計した結果、つまり出発地と目的地ごとに整形したデータとして保存している場合もあります。そうしておくことで、よりシンプルに自動車の移動実態を把握できるからです。

 例えば、数台の社用車を共用している配達業者において、特定の時間帯に車両の利用が集中し車両が足りない状況が頻発してしまうという課題があったとします。社員から車両を増やすよう訴えがあった場合、コストをかけて車両を追加するのも方法の1つですが、自動車の移動データからは他の解決策が見出だせる可能性があります。

 まず、車両が足りなくなる時間帯は保有車両がフル稼働しているわけですから、その時間帯の車両の移動ルートと訪問先を車両ごとに確認します。訪問ルートや配達エリアが近接していたり重複していたりするようならば、配達ルートを変更または統合することで空き車両を増やせるかもしれません。

 一方、走行データからは車両が稼働していない時間がどれくらいあるのかが確認できます。社員からは「利用したくても車両が出払っている」と指摘される時間帯であっても、データを見ると「実は10分後には帰社し車庫に停まっていることが多い」ということが分かるかもしれません。であれば、車両を利用するタイミングをずらすことで課題は解決に向かいます。

 それぞれの車両の1件または1社当たりの「配達にかかっている時間」を確認することも重要です。この時間は、配達先に到着してから、そこを離れるまでの時間の差分を計算することで把握できます。1件の配達にかかる時間の全社員の平均などと照らし合わせて、必要以上に時間がかかっている社員がいれば、その原因を探り解決策を検討することが可能になります。

 このように移動データを複数の角度から可視化・分析することで、存在する課題に対して今まで見えていなかった要因を把握できるのです。

非移動データとの組み合わせが移動データ活用の可能性を広げる

 移動データは、それ単体ではなく、保有する他の非移動データと組み合わせることで、より具体的な分析が可能になります。先に挙げた配送事業会社の例でも示したように、自動車の目的地を計測/推測することは非常に有用です。

 目的地が有名な場所や分かりやすい場所であれば地図上に配置しての推測派容易です。ですが、目的地の数が膨大だったり細かい路地だったりすれば、目視での推測は難しくなります。そうした場合は、保有する施設や訪問先リストと移動データを組み合わせ、訪問したか否かの推定処理を計算し追加していきます。

 具体的には、訪問したと判定する距離をしきい値に設定し、移動データが、そのしきい値の範囲に入れば、自動車が、その施設を訪問したと判定します(図3)。

図3:目的地からの距離をしきい値に設定し、目的地を訪問したかどうかを判定する

 移動データと非移動データを組み合わせることは、移動データ活用の幅を大きく広げる可能性を持っています。

 例えば、観光地における観光スポット情報と、その緯度・経度を基準にすれば、レンタカーやカーシェアの車両が、どこの観光スポットを訪れているかを推測できます。そこから観光スポットを訪問する順番やルート、回数、滞在時間などを計算し把握することで、提携クーポンの発行やお薦めルートマップの作成など、観光事業における誘客施策への活用が検討できるようになります。

 人流データであれば、例えばスーパーマーケット内で、顧客がどのようなjyン路で店内を回って商品を購入しているのかを計測することで、商品の陳列方法を最適にするという取り組みに利用できます。自家用車以外の移動データを使って、全国の鉄道やバスなど公共機関の利用状況を可視化するプロジェクトなど、大小様々な形で移動データを組み合わせた活用が進んでいます。

 第1回でも触れたように、スマートフォンやIoTデバイス、クラウドサービスの普及により、移動データの取得、蓄積、活用におけるハードルは大きく下がってきています。

 弊社の取り組みの中でも、まずは移動データを取得し、移動データに触れ理解してみる。そのうえで、移動データが現場の課題解決にどう活用できるのか、どんな価値を創出できるのかを検討するという順序で進むプロジェクトの例も少しずつ増えてきています。移動データ活用の可能性は、様々な分野・業種へと広がっています。

山本 剛央(やまもと・たかひさ)

スマートドライブ モビリティデータコンサルタント。海外ECや人材系の業界にて、データ分析や分析基盤の構築を経験。200カ国以上の購買データの分析をもとにアプリマーケティングやデジタルマーケティング、マス広告への展開などを実施。SmartDriveに参画し現職。移動データ解析のための基盤構築や分析、クライアントへのコンサルティング業務に従事している。