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都市のデジタル化と3DモデルBIMの必要性【第1回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年6月6日

これからの街づくり都市作りや社会課題の克服には、デジタル技術の活用が不可欠でしょう。しかし、街づくりや社会課題の解決は、これまでも脈々と取り組んできたテーマです。デジタル技術を活用することで何が変わるのでしょうか。今回は、街や都市におけるデジタル化について考えてみます。

 私たちは今、圧倒的な速さで進化する情報革命・デジタル経済の中で暮らしています。日常生活においてもデジタルテクノロジーを使った各種製品/サービスのデジタル化は身近になり、グローバルに共通の製品/サービスを使い、シェアしていく時代に変わってきています。

デジタル化の根本は「データ化」にある

 デジタル化というと、多くの人は通信技術やAI(人工知能)技術などのテクノロジーそのものを思い浮かべるかもしれません。そうしたテクノロジーも不可欠ですが、その力を発揮するためには、整理されたデータが不可欠です。デジタル化とは何かを考えるときに、筆者はよりシンプルに「それはデータ化だ」と考えます。

 私たちの生活基盤である「街」においてもデータ化が始まっています。先行するのは、人や車など動的なモノのデータの収集・蓄積です。そうしたデータを使った新しいサービスも登場しています。コロナ禍での混雑情報の可視化や人手の多寡を示す人流情報などで身近になりました。

 これに対し、建物や道路など静的なモノのデータについては、その必要性への認識が高まり、データの取得・蓄積が本格化してきた段階です。

 そのきっかけの1つが、政府が2019年12月に発表した「デジタルニューディール政策」です。2020年5月には国会議員の有志が『社会資本整備のデジタルニューディールに向けて』の中で「三次元モデルデータ、官民共通のインフラデータ基盤を導入し、社会資本のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進」としています。

 例えば防災分野を考えてみましょう。過去の天気情報や降雨量などのデータは、これまでも天気予報や防災計画の策定などに使われてきました。このデータを、土地や建物の配置を示す地図情報や、構造を示すデータなどと組み合わせれば、災害の発生状況をよりリアルにシミュレーションできるようになります。

これからの街づくりにデジタル化は不可欠

 これからの街づくりや、各種の社会課題の克服には、デジタル化への取り組みは不可欠だと言えます。特に社会課題は、地球温暖化による気候変動や、自然災害の増加・甚大化、一人暮らしの高齢者の増加や空き家問題など、複雑化・深刻化・グローバル化する一方だからです。

 街づくりは、衣食住の「住」に当たり、そのハードウェア面での実現は建設が担ってきました。建設とは本来、土木や建築に限らずに「新たに作り上げる」という意味であり、土木・建築においては「人々が健康で快適に過ごせる空間づくり」を意味します。

 日本の建設業は、盛んな内需と建設投資にバックアップされながら、日本人独自のすり合わせ技術や創造性からくるハイスキルな職人技とも相まって、独自の成長を遂げてきました。世界の建設プロジェクトを見てみても、日本の建設業の品質・コスト・工期厳守への取り組みはトップレベルであることは間違いありません。

 その一方で、日本の建設業界の構造や仕組みは長年変わっていません。そのため建設業界の生産性は、残念ながら他業界に比べ非常に低いとされています。背景には、建設従事者の高齢化や若手不足でノウハウや技術の伝承が進まないことによる業界全体でのスキルやノウハウの低下があります。それだけに、担い手の確保や育成、働き方改革などによる業界の魅力向上などが緊急かつ最重要の命題です。

 こういった課題を抱えながら、衣食住の「住」を支えるハードウェアとソフトウェアをアップデートする際に重要なのが、やはり建設業のデジタル化です。シミュレーションや可視化、効率化、従事者のスキルの平準化、ひと・モノ・金の投入資源の最適化を推進しなければなりません。