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- スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値
ライブラリーによるBIMの流通・共有が可能性を高める【第2回】
特に日本では、BIMの普及は大きく出遅れてきました。2010年に国交省が「BIM導入宣言」を出したにもかかわらず、しばらくは建設業界のほとんどの人が「BIMは日本では普及しない」と決めつけている雰囲気がありました(表2)。
国名 | 時期 | 内容 |
---|---|---|
日本 | 2009年 | BIM元年と言われているが実態とかい離 |
2019年4月 | 建築BIM推進会議が設置され政府主導の動きがスタート | |
2019年6月 | 「デジタルニューディール」発表。社会資本の整備へのBIM/CIMの活用を明言。防災・減災にも言及 | |
アメリカ | 2003年 | 政府がBIM計画を発表 |
2007年 | BIMを義務化 | |
2012年 | BIMの普及率が7割程度にまで拡大 | |
イギリス | 2011年 | 2016年までの政府事業におけるBIMの義務化を宣言 |
2012年 | BIMオブジェクトの無料ライブラリー「NBS National BIM Library」を創設。サプライチェーン全体にまで適用範囲を拡大 | |
シンガポール | 2013年 | BIMを義務化 |
2016年 | 国土全体を3Dモデル(BIMモデル)化する「バーチャル・シンガポール計画」を発表 | |
香港 | 2018年 | BIMを義務化 |
その状況は、ようやく変わりつつあります。2019年に政府が「デジタルニューディール」政策を発表、そこにコロナ禍が加わり、BIMオブジェクトなどを活用したインフラ(社会資本)整備の重要性が高まってきました。政府も官民共通のデータ基盤を導入する計画です。AI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などのデジタル技術の普及は、小さな設計事務所での利用も後押ししています。
建築士だけでなく行政や市民ともつながっていく
BIMは、建材設備メーカーと設計士をつなぐデジタル上の共通言語であり、ライブラリーはプラットフォームだといえます。例えば、日本の小さな建材メーカーであっても、BIMライブラリーに自社製品のBIMオブジェクトを掲載すれば、海外の建設プロジェクトにおいて、その企画・設計段階から自社製品の導入が検討されるチャンスが生まれるなど、海外進出にもつながります。
さらに、自社BIMオブジェクトのダウンロードの状況を示すマーケティングデータを活用すれば、BIMは新たな販促ツールにもなります。例えば東南アジアでは現在、bimobject.comの利用が急速に伸びており、ベトナムは日本の2倍以上の登録ユーザーがいます。欧米メーカーは自社製品のBIMオブジェクトをbimobject.comに掲載することで、東南アジアの設計者やゼネコンなどに関心を持ってもらうことを足掛かりに市場開拓を進めています。
今後、建材設備メーカーは、BIMで自社製品を表現しデジタル世界に流通させなければ、リアルなマーケットでのシェアを伸ばすことは難しくなると推測されます。
また近い将来、建築の全工程を一元管理できるBIMがインフラとして整備されれば、AR(Augment Reality:拡張現実)/VR(Virtual Reality:仮想現実)やIoTとつながることが見込まれます。
そこでは、建築のプロだけでなく、建築や空間を利用するエンドユーザーもBIMを利用するようになるでしょう。そうなれば、私たちの想像力を掻き立て、思いもよらない使い方やイノベーションへとつながっていくのではないでしょうか。
例えば、居住空間にBIMをベースにしたシステムを組み入れ、家電や室温などのデータを統合すれば、日常生活をより快適でカスタマイズされたものにできます。さらに行政も連携した取り組みにできれば、例えば、一人暮らしの高齢者の生活支援に応用したり、病院や学校など公共性の高い施設を避難場所として利用する際の防災・減災を目的としたシミュレーションにも生かしたりすることも可能になります。
これまでBIMは、設計士のための専門的なツールと捉えられてきました。しかし今後は、街づくりや、人々の生活に関する、あらゆる情報の受け皿になり、情報が蓄積されていくことでしょう。これからのBIMは、企業、行政、市民が共通に利用する“住”を支えるためのデジタルインフラになると確信しています。
東 政宏(ひがし・まさひろ)
BIMobject Japan 代表取締役社長。1982年石川県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2005年野原産業入社。見積もりから現場施工までアナログ作業が多い建材販売の営業職を長く経験。その後、新製品拡販のWebマーケティングで実績を残す。2014年頃から建設業界のムリムダを解決するにはBIMが最適と実感し事業化を検討。2017年スウェーデンのBIMデータライブラリー企業とBIMobject Japanを設立し現職。2020年7月からは野原ホールディングスVDC事業開発部部長を兼務し、AI(人工知能)技術を使った図面積算サービス「TEMOTO」の開発や、3Dキャプチャー技術を持つ米Matterportの国内正規販売代理など、デジタル技術と現場経験を掛け合わせた次代の建設産業の構築を目指している。