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  • スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値

「建設×デジタル」で持続可能な社会に貢献する【第8回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2023年1月10日

BIMによる次世代の建設産業が都市の課題を解決する

 建設業界はこれまで、街づくりのハード面を担ってきました(第1回参照)。世の中になくてはならない産業である一方で、CO2(二酸化炭素)を常に排出する産業でもあります。特に戦後の高度成長期の大量生産・大量消費、使い捨ての時代にあっては、建物もスクラップ&ビルドが繰り返され、環境に大きな負荷をかけてきました。

 この点でも日本には、100年住宅や木材を再利用する技術など、地球環境と調和するという観点が昔から存在しました。神社仏閣の建造で宮大工が釘を使わずに木材だけで組み立てる「木組み」という伝統技術は、その象徴でしょう。持続可能性を前提にした日本の良さを、より現代に合った形で未来につなげたいと考えています。

 「建設」という言葉は「人々が健康で快適に過ごせる空間づくり」に由来しています。同時に忘れてはならないのが地域に密着した産業であるということです。現場の経験にBIMなどのデジタル技術を掛け合わせることで、脱炭素やSDGsとの両立が図れる“次代の建設産業”が誕生し、他分野にも好影響を及ぼせるのではないでしょうか。

 BIMを含めたデジタル技術が建設業界で普及し利用されることで、SDGs(持続可能な開発目標)に対しても、図3に挙げる項目には大きく貢献できるはずです。

図3:建設業界がデジタル化で貢献できるSDGsの目標の例

 特にBIMの本質である「フロントローディング」(第3回参照)と、仮想空間におけるシミュレーションによる経験価値の創造は、建設業界に新たな価値を生み出します。BIMは、地球環境に配慮した効率的かつ効果的なモノづくりと、人の“想像力”の補強・拡張により、日本の未来像である「Society 5.0」の実現を助けると筆者は確信しています。

東 政宏(ひがし・まさひろ)

BIMobject Japan 代表取締役社長。1982年石川県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2005年野原産業入社。見積もりから現場施工までアナログ作業が多い建材販売の営業職を長く経験。その後、新製品拡販のWebマーケティングで実績を残す。2014年頃から建設業界のムリムダを解決するにはBIMが最適と実感し事業化を検討。2017年スウェーデンのBIMデータライブラリー企業とBIMobject Japanを設立し現職。2020年7月からは野原ホールディングスVDC事業開発部部長を兼務し、AI(人工知能)技術を使った図面積算サービス「TEMOTO」の開発や、3Dキャプチャー技術を持つ米Matterportの国内正規販売代理など、デジタル技術と現場経験を掛け合わせた次代の建設産業の構築を目指している。