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DXの成功にはカスタマージャーニーの設計・実装が不可欠【第3回】

陳 帥良(ペガジャパン ソリューション・コンサルティング エンタープライズ・アーキテクト)
2022年9月14日

ビジネス部門とIT部門が連携しカスターマージャーニーを設計・実現する

 この時、重要になるのがビジネス部門とIT部門のコミュニケーションです。図1で示したように、ビジネス部門が求めるビジネスバリューを、IT部門がプロダクトとして実現するためには、ビジネスのためのプロダクトを段階的に完成・改善していくために、アジャイル開発におけるタスクを正しく認識し、優先順位を決定できなければならないからです。

 昨今は、テクノロジーの普及に伴い、企業と顧客の関係に変化が起きています。顧客はスマートフォンやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などのテクノロジーを使ってのCX(Customer Experience:顧客体験)の向上を求めており、企業はその対応を求められています。顧客の需要を満たすためのビジネスプロセスが「カスタマージャーニー」です。

 CX向上という戦略的イニシアティブを推進し、有効なカスタマージャーニーを実現するためには、次の2つのアプローチを取ることが有効です。(1)デザイン思考をベースにした「マイクロジャーニー」と、(2)顧客が望む成果を中心とした開発です。

デザイン思考をベースにしたマイクロジャーニーのアプローチ

 カスタマージャーニーは、その数が膨大になると一度に実装するのが困難になります。そこで、デザイン指向を採り入れ、カスタマージャーニーを管理しやすい単位であるマイクロジャーニーに細分化します。デザイン思考の採用は、ビジネスとITのギャップの解消にもつながります。

 マイクロジャーニー化に向けては最初、内容の整理やマインドチェンジに少し時間がかかるかもしれません。ですが、最も実現したいビジネス価値と、そのためのマイクロジャーニーを1つ以上特定し実装していくことで、短いサイクルでの価値提供が可能になります。多くの企業が、マイクロジャーニー化により、平均60日以内に最初のリリースを実現しています。

 デザイン思考に基づくマイクロジャーニーのプランニング段階では、海外の企業の多くが次の2つの取り組みを実践しています。

取り組み1:実現するビジネスバリューの合意

 最初に、DXを「なぜやるのか(Why)」という価値をビジネスリーダーや主要なステークホルダー、プロジェクトスポンサーなどと明確にします。そこから「どうすべきか(How)」というソリューションを特定し、「やるべきこと(What)」として現状の課題を解決します。

 ソリューションの特定では、関係者を集めてアイデアを出し合い、シナリオを作り、プロトタイプによるPoC(概念実証)を実施します。求められる効果と、関連するマイクロジャーニーを定義できれば、そのマイクロジャーニーを実現するプログラムを実装します。

取り組み2:スコープの特定とバックログの管理

 一度の実装では、マイクロジャーニーが対象にするすべてのユーザーの要求を満たせないことがあります。エンドツーエンドのビジネスプロセスを実現するためのデータ連携が容易には実現できないこともあります。すぐに実現できる部分から優先的に実装し、時間がかかる部分はバックログとして管理します。

顧客が望む成果を中心とした開発のアプローチ

 顧客が望む成果=ビジネス価値の実現においては、提供すべきCXの変化にアジャイル(俊敏)に対応できるだけの開発スピードとスケーラビリティ(拡張性)を確保する必要があります。

 CXを顧客に届けるためのチャネルは、モバイルアプリケーション、Webサイト、コンタクトルセンター、チャットボットなど、さまざまであり、それぞれが常に機能強化が進んでいます。CXのためのアプリケーションを、これらチャネルありきで開発すると、ビジネスロジックが各チャネルに埋め込まれ分断されることになります。変化に対応するには、チャネルごとに更新が必要でコストがかかります。

 一方、基幹システムやERP(統合業務システム)、CRM(顧客関係管理)などのシステム、顧客関連のデータベースありきで開発すると、その開発はデータ中心になり、全社で顧客情報を統一するための仕組みは複雑になり、やはり時間とコストがかかります。

 チャネル中心、データ中心に対し、顧客中心の開発では、顧客が望む成果の開発から取り組みます。上述したマイクロジャーニーを定義したうえで、成果につながるビジネスロジックをエンドツーエンドで設計します。各チャネルに共通のマイクロジャーニーを実現することで、CXの一貫性を保ちます。ビジネスロジックを変更する際も、マイクロジャーニーを変更すれば、すべてのチャネルに反映できます。

 こうしたプロセスをPegaでは「Center-out」と呼び、その実行に必要なプラットフォームを提供しています。同プラットフォームでは、図1で示したプロダクトライフサイクルに対応し、バックログ管理しながら段階的な実装が可能です。