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  • 現場のリーダーが考えたDX人材像を示す「DXスキルツリー」

求める人材像を知るにはDX活動の流れをつかむ【第1回】

磯村 哲、西山 莉紗、伊藤 優、中道 嵩行
2022年8月4日

DX活動は固定メンバーではやり切れない

 DX活動を成功に導くために必要な人材像とは何か。まず結論から述べます。

DX活動では、様々なスキルが順を追って要求される。そのため、超人的な多能工集団でない限り、最初から最後まで固定したメンバーでやり切ることは不可能だ

DXは複雑な活動だが、その流れと役割を理解することで、多くの企業が取り組み・推進できると信じている

 そのうえでポイントは2つあります。

ポイント1 :DXのうち「なぜ」「何を」やるのかを担う人と、「どうやって」やるのかを担う人を分ける。「なぜ」「何を」はプロダクトマネジメントに、「どうやって」はプロジェクトマネジメントに関連する。世間ではDXの見方が後者のプロジェクトに偏っているというのが筆者らの問題意識である

ポイント2 :スキルの束としての人材を適切な粒度で定義すれば、本人も企業としても、活躍シーンをイメージできる。後述するようにDXをステージで定義したとき、それぞれのステージで実施される活動があり、それに必要なスキルがある。そのスキルを提供するのがDX人材である

 DX人材の役割を正しく理解するために今回は、DX活動の流れを解説します。

 DXへの取り組みには、大きな流れがあります(図2)。経営陣は競争環境や自社の能力、マーケットの動きなどから経営戦略を立案します。事業部門は、その戦略を実現しなければなりません。一方で、顧客や現場の課題があり、それらも解決しなければなりません。現場を無視した戦略は絵空事ですし、戦略と無関係な現場課題は些事に過ぎないのです。

図2:DX活動の大きな流れ

 これらのことを考えれば、経営戦略と顧客/現場の課題の交点に変革ニーズを設定し、デジタルで解決するのが妥当なDX活動ということになります。その内容面では、活動の経営陣としてデジタルの観点を持ち込む「DXプロデューサー」や全社戦略や事業戦略立案に関わる「DXストラテジスト」が貢献します。全社リソースやポートフォリオの管理に関わり、すべての情報が集まる事務局も欠かせない存在です。

 DX活動が進むと、そのアウトプットは新規事業やビジネスモデル/ビジネスプロセスの変革として企業活動に貢献します。その活動内容や成果は、社外に対しては広報と事務局が連携して公表し、エコシステムの強化やブランディング/リクルーティングに役立てます。社内に対しては、ミドルマネジャーや情報システム部門と事務局が連携し、変革を定着させ風土を改善していきます。

 社外・マクロ・経営視点のループと、社内・ミクロ・現場視点のループを高速に、かつ的確に回せれば、DX活動は自然と加速し、企業は継続的に変革できるようになるでしょう。

 そしてDX活動の大きな流れは、大きく5つのステージからなります。(1)構想ステージ、(2)価値PoCステージ、(3)技術PoCステージ、(4)開発ステージ、(5)運用ステージです(図3)。

図3:DX活動における5つのステージ

(1)構想ステージ :ニーズと技術をすり合わせてDXの実現性を検討します。
(2)価値PoCステージ :今のコンセプトが価値をもたらすかの検証をします。
(3)技術PoCステージ :今のコンセプトが技術的に実現可能かを検証します。
(4)開発ステージ :実運用のためのアプリやシステムを作ると同時に新しいビジネスプロセスも実装します。
(5)運用ステージ :新しいビジネスモデルやプロセスで価値を生み出します。

 次回は、各ステージについて説明します。

磯村 哲(いそむら・てつ)

小野薬品工業 デジタル戦略企画部 部長。三菱化学、ゾイジーン、モレキュエンスにて研究と新規事業立ち上げを担当。地球快適化インスティテュート チーフアナリスト、三菱ケミカルホールディングス チーフコンサルタント/データサイエンティストを経て2021年に小野薬品工業に入社。データサイエンスとビジネスモデルを軸としたデジタルビジネス変革に従事している。

西山 莉紗(にしやま・りさ)

みらい翻訳 エンジニアリング部 エンジニアリングマネージャー。2006年に日本IBMに入社し、自然言語処理に関する研究と、お客様PoC向けのプロトタイプ開発および商用ソフトウェア開発に従事。2018年に三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織にデータサイエンティストとして加入し、デジタル技術を利用した社内文書の業務活用を推進する。現在は機械翻訳エンジン研究開発チームのマネージャーとして、多言語業務に関するお客様のDXを間接的に支援している。

伊藤 優(いとう・ゆう)

三菱ケミカルグループ データ&先端技術部 データサイエンティスト。2017年、三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織に発足期より参画。現場で使われる機械学習モデルを志向し、テクノロジーと人との橋渡しに軸足を置く。画像解析を中心に数々のプロジェクトに従事し、製造や研究の現場への導入・運用実績を持つ。

中道 嵩行(なかみち・たかゆき)

製造ベンチャー企業に在籍。三菱化学にてS&OP、事業企画、M&A等を担当し、2019年に三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織に参画。チーフビジネスアナリストとしてDXプロジェクトの組成・実行・支援、人材育成の方法論構築などに従事するほか、デジタルビジネスチームのリーダーも務める。2022年より現職。