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- 現場のリーダーが考えたDX人材像を示す「DXスキルツリー」
DX活動の成果のカギを握るのは「ビジネスリーダー」【第3回】
DXでは従来の役割では担当領域が大きくなりすぎる
DX活動においても、プロダクトマネジャーとプロジェクトマネジャーの2つの役割は必要になります。例えば上述した不具合の検知ソフトウェアと、それを用いた新しい検査工程を実現するDX活動を考えてみましょう。
そこでは、「このソフトウェアは、誰に、どのようなタイミングで使われるのか」や「検知漏れや誤検知が起こり得るとすれば、全体の検査工程をどのように再設計し、製品の最終品質を担保するのか」といったことを考えることが非常に重要になります。これらを考えるのがプロダクトマネジャーです。加えて、「いつまでに、どのような体制でこの成果物を作っていくか」ということを決める必要があり、それはプロジェクトマネジャーの役割です。
しかし、広義のプロダクトを成果物とするDX活動においては、これら2つの役割だけでは担当領域が大きくなりすぎ、役割があいまいになりかねません。そこでDXスキルツリーでは、この領域に必要な人材を(1)ビジネスリーダー、(2)デジタルプロダクトリーダー、(3)ビジネスプロセスマネジャー、(4)ビジネスプロセスエンジニア、(5)ドメインエキスパートの5つの人材群に分けました(図3)。
(1)ビジネスリーダー
DX活動の成果のカギを握る人材で、強い信念を持ってDX活動を推進します。大企業における大きなDXへの取り組みであれば事業部門長、小さな取り組みであれば事業部門や関連部門のミドルマネジャーが担当するイメージです。
ビジネスリーダーは、DXを一時的な試験プロジェクト(PoC:概念実証)のみで終わらせずに、成果物を現場浸透させる上で重要な役割を担います。特に慣習を重んじる組織では難しい役割になります。
そのため、事業や業務の深い理解と併せて、それらを確実に変革するためのチェンジマネジメントスキルが求められます。DX活動を成功に導くには、「なぜDXなのか」「DXによって何をどう変えるのか」を決定し、現場と関連部門に周知して理解を得る必要があるからです。
(2)デジタルプロダクトマネジャー
先端IT技術に関する知識をもってビジネスリーダーを支援する人材です。ビジネスリーダーが示すプロダクトの技術的な実現方法を検討し、難しい場合には代替案を示すことが求められます。
ビジネスリーダーは、深いビジネス知識に基づいてプロダクト(成果物)の方向を定めますが、デジタル技術を活用するプロダクトの実現可否を判断するには先端IT技術についての知識が必要です。しかし、深いビジネス知識と深いIT知識の両方を持つ人はそう多くはありません。そこでデジタルプロダクトマネジャーが、先端IT技術に関する知識を補うのです。
デジタルプロダクトマネジャーは、一般的な意味合いでのプロダクトマネジメントを担当しますが、対象とするDX活動における成果物はITシステムやソフトウェアになります。業務プロセスは、後述する「ビジネスプロセスマネジャー」が扱います。
(3)ビジネスプロセスマネジャーと(4)ビジネスプロセスエンジニア
いずれも、ビジネスリーダーと協力して、DX活動によって生まれる新しい業務プロセスの設計と運用を指揮する人材です。ビジネスプロセスマネジャーは、ビジネスプロセスエンジニアと比較して、より強いチームマネジメントとリスクマネジメントのスキルを持ち、特に運用に対して強い責任を持つイメージです。
プロセスの設計においては、「ビジネスアナリスト」とも協力しますが、ビジネスアナリストが中立的な立場からの見解を求められるのに対し、ビジネスプロセスマネジャー/エンジニアは、組織内部の人間として、新しい業務プロセスを現場に浸透させる必要があります。
(5)ドメインエキスパート
ビジネスまたは業務の専門家として、ビジネスプロセスマネジャー/エンジニアと協業する人材です。実際のビジネス現場を熟知するとともに、広い人脈を持ち、ビジネスアナリストやビジネスプロセスマネジャー/エンジニアからの、さまざまな疑問や質問に答えることが期待されます。
今回説明したビジネスリーダーと、それを支える4つの人材は、第2回で説明したDX活動のステージにおいて、PoCから開発のステージで要件定義に関わるとともに、運用ステージで成果物の現場浸透や改善を担当します(図4、図5)。
次回は、主に技術PoCステージと、開発・運用ステージを支えるIT技術を専門とする人材像について説明します。
磯村 哲(いそむら・てつ)
小野薬品工業 デジタル戦略企画部 部長。三菱化学、ゾイジーン、モレキュエンスにて研究と新規事業立ち上げを担当。地球快適化インスティテュート チーフアナリスト、三菱ケミカルホールディングス チーフコンサルタント/データサイエンティストを経て2021年に小野薬品工業に入社。データサイエンスとビジネスモデルを軸としたデジタルビジネス変革に従事している。
西山 莉紗(にしやま・りさ)
みらい翻訳 エンジニアリング部 エンジニアリングマネージャー。2006年に日本IBMに入社し、自然言語処理に関する研究と、お客様PoC向けのプロトタイプ開発および商用ソフトウェア開発に従事。2018年に三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織にデータサイエンティストとして加入し、デジタル技術を利用した社内文書の業務活用を推進する。現在は機械翻訳エンジン研究開発チームのマネージャーとして、多言語業務に関するお客様のDXを間接的に支援している。
伊藤 優(いとう・ゆう)
三菱ケミカルグループ データ&先端技術部 データサイエンティスト。2017年、三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織に発足期より参画。現場で使われる機械学習モデルを志向し、テクノロジーと人との橋渡しに軸足を置く。画像解析を中心に数々のプロジェクトに従事し、製造や研究の現場への導入・運用実績を持つ。
中道 嵩行(なかみち・たかゆき)
製造ベンチャー企業に在籍。三菱化学にてS&OP、事業企画、M&A等を担当し、2019年に三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織に参画。チーフデジタルアナリストとしてDXプロジェクトの組成・実行・支援、人材育成の方法論構築などに従事するほか、デジタルビジネスチームのリーダーも務める。2022年より現職。