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  • 現場のリーダーが考えたDX人材像を示す「DXスキルツリー」

DXスキルツリーの活用方法と今後の発展方向【第5回】

磯村 哲、西山 莉紗、伊藤 優、中道 嵩行
2022年12月8日

DXが求める変革のニーズが消えることはにない

 DXスキルツリーを使ったDX人材の育成・獲得が進むとして、彼らの活躍の場となるDX自体の将来は、どうなるのでしょうか。もちろん、それは誰にも分かりません。筆者らのなかの1人はかつて、未来予測からの新規事業立案を生業にしていましたが、今振り返っても当時の予測は大して当たっていないというのが正直なところです。

 だが米国の経済学者であるケネス・アロー氏が「当たらない予測であっても計画立案のためには必要である」と述べているように、目の前のスキルや人材像がどうなるかを考えてみることは、今後のキャリア設計や組織設計の一助になるはずです。

 DXは「デジタル」と「変革」の2つの要素から成っています。このうち変革のニーズが消えることはないでしょう。「持続的な競争優位」という概念が、どうやら幻想である以上、絶えず変革は必要だからです。

 もっとも、Fortune 500企業の平均寿命が今、20年を下回っているであろうことを考えれば、今後は米国のみならず欧州や日本でも、企業を存続させること自体が下火になり、既存企業の変革より、起業とM&A(企業の合併と買収)の重要性が増す可能性はあります。

 そうなれば、既存企業を変革するスキルのニーズは下がります。同時に、新興企業は“デジタルネイティブ”なためDXを必要としないとなれば、DX人材のニーズが消滅する可能性もあります。抜本的な企業変革ではなく、PMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)の一分野としてDXが細々と生き残る未来もあるかもしれません。

 しかし企業の寿命が短くなっているといっても、実際には大企業が中小企業や振興企業を買収し文化を変容させながら成長しているのが現実です。そこでは既存企業のDXニーズは大きくなります。デジタル的な観点によるシナジーが成長戦略に大きな影響を与えるため、DXはいよいよ経営戦略と一体化していくでしょう。

 一方のデジタルは、どうでしょうか。デジタル技術という概念にコンセンサスがないため、これを論じるのも難しいことですが、ITが今後、急速に下火になる将来は想像ができません。ただ一方で、「社会には必要だが儲からない」産業になる未来は容易に想像できます。現時点でも、そうした産業はすくなくありません。

構造的に希少なスキルは将来も重要に

 今後もプラットフォームが覇権を握るのか、コンテンツが王様の地位を取り戻すのか。スタートアップブームは過熱するのか沈静化するのか。そもそも社会の変化が加速するのか減速するのか。これら相反する兆候が、それぞれ存在するだけに、どのスキルが希少化し、どのスキルが陳腐化するかを予測するのは至難の業です。

 だが、もう少し踏み込んでみれば、求められるスキルは基本的に(1)需要が伸びているか、(2)構造的に希少であるかのどちらかでしょう。このうち(1)の需要が伸びるかどうかは、前述の理由から予測が難しい。ですが、需要が伸び世間で話題になると供給が増えるため、参入障壁が低いスキルは比較的短期に需給がバランスしてしまいます。従って、ここでは(2)の構造的に希少なスキルを考えます。

 スキルが構造的に希少になる理由としては、国家資格などの参入障壁がある、習得に長大な時間が掛かるか習得できる場が希少、生来の特殊な能力が必要、複数のスキルの合わせ技のため適性が限られるなどが挙げられます。加えて近年は、機械化やAI化、簡易ツール化が難しいということも条件になっています。

 これらの希少性の大半は、デジタルの特徴であるオープンさとIT人材の流動性の高さによってカバーされてしまいます。ITリテラシーが髙まれば、今は希少な「IT×固有分野」の合わせ技ができる人材も増えていくでしょう。

 例えば、DXスキルツリーでは、ビジネスリーダーとデジタルプロダクトマネジャーを分けて定義しています。ビジネスリーダーは多様な能力を必要とするため、そのうえさらにデジタルの専門知識を求めると現実離れした人物像になってしまうと考えたからです。

 しかしITリテラシーが高まりDXの経験値が増えれば、何年か後にはビジネスリーダーにデジタルの能力を期待することは不自然ではなくなるでしょう。そうなれば、デジタルプロダクトマネジャーという人材像は消滅するかもしれません。

 ノーコード/ローコード開発により、エンジニア間の垣根が下がる可能性もあります。特にPoC(概念実証)フェーズにおけるアプリケーションエンジニアとデータエンジニアなど、動作するプログラムを手早く作るというニーズが複数の職業を融合させるかもしれません。