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  • DX時代の障壁と突破口

いつまでも日本企業がDXの成功にたどり着けない理由(課題と改善編)【第2回】

塩野 拓、皆川 隆(KPMGコンサルティング)
2023年1月23日

前回は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に全社として日々挑戦している日本企業が「成功している」と断言できなくしている3つの障壁を紹介した。今回は、それらの障壁が引き起こしている課題と、その解決策を事業部でDX推進を任されたリーダーに向けて提言したい。

<第2回のポイント>

  • DX推進目線での課題は、「経営・事業とデジタルの乖離・不整合」と「DX実行の混乱・離反・衰退」に帰結する
  • 解決のキーワードは「DX推進における主体性・自律性の確立」である。そのためにはまず「DX推進主体の明確化」と「DX推進の仕組みの構築」が必要である
  • DXは各事業部が主体性・自律性を持って推進すべきである
  • 日本企業のDX推進における有力なアプローチは「2階建てのDX組織スキーム」である
  • DX専門組織のミッションは「事業部がDX推進に注力できる環境(仕組み)創り」である。

3つの障壁はDX推進の計画と実行の課題として現れる

 前回、日本企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の成功を阻む3つの障壁として、(1)経営層の領域に存在する事象、(2)事業部の領域に存在する事象、(3)既存のIT部門の領域に存在する事象を挙げた。これらの障壁は、実際にDXを推進するための計画・実行の側面では、それぞれ以下のような課題に形を変えて現れる(図1)。

図1:DXの計画・実行段階での課題

計画の観点での課題:経営・事業とデジタルのかい離・不整合(経営戦略・事業戦略・DX戦略の未充足および不整合)

 DX推進において経営や事業に資する明確な方針・ゴールの設定やKPI(重要業績評価指標)の定義がなされていないため、デジタル技術を導入すること自体が目的になってしまう。経営や事業の改革・改善のための一手段としてデジタル技術を活用し、経営に資するという本来の目的とのかい離・不整合が生じる。

 DX推進を任された事業部のリーダーにすれば、デジタル技術の導入を通じて、どのように事業を変革させるのかを理解できず、事業としての意思を反映できていない、あるいは反映できない状態になってしまう。

実行の観点での課題:DX実行の混乱・離反・衰退(DX推進の仕組みの未成熟および主体性・自律性の未確立)

 多くの日本企業にとって未知の領域であるDX推進に向けた準備である仕組み(プロセスや体制、スキル、機運の醸成)が不十分な状態である。

 結果、社員へのデジタルリテラシーの育成が不十分なままにDX推進活動が始まり、かつ各部門内でサイロ化していることから、全社最適の観点においては、推進主体が不明瞭なままに、リソース不足やプロセスの不透明化、不適切なソリューションの採択を引き起こしてしまう。

 この状態でDXの実行フェーズに突入してしまうと、DX推進を任された事業部のリーダーは、「何を、どの順番(プロセス)でやるべきかが不明」「推進に必要なリソースの不明確さ、および確保が困難」という“混乱”状態に陥り、以下のステップを踏んで、最終的には“衰退”という状態に至ってしまう。

混乱 :何を、どの順番(プロセス)でやるのか不明。実行しようにもリソース(人数・スキル)不足で進まない
離反 :プロジェクト開始当初は意欲があったが、仕組みの未充足による混乱により、意欲が低下し、それに伴う離反が起こる
衰退 :離反に伴ってDX推進の機運が弱まり、衰退を引き起こす