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DX推進現場が具備すべきテクノロジー方法論(DXソリューションモデル編)【第6回】

塩野 拓、荻原 健斗(KPMGコンサルティング)
2023年3月20日

自社に活用できそうなDXの先進事例を収集する

 次に、自身や自事業部が言語化したDXの定義に沿って、他社のIR情報やプレスリリースなどからDXに関する事例を収集していく。その際のお薦めは、経済産業省が公開している『DX銘柄-選定企業レポート』である。

 経産省は、ビジネスモデルや業務プロセスなどの変革にデジタル技術を活用している企業を2020年から「DX銘柄」として選定している(「DX銘柄」の前身である「攻めのIT経営銘柄」は2015年から)。『DX銘柄-選定企業レポート』は、その取り組み事例として、年1回公開されている。多種多様な業界における最先端のDX事例が取り上げられており、「どのような理念のもと」「どのような要素技術を活用して」「DXで何を実現しようとしているのか」の概観を掴める。

 もちろん、レポートに取り上げられている全企業の事例を読了いただきたいが、まずは自社と同一または関連性のある業界の取り組みや、他業界であっても自事業部に関連性のある取り組みを把握できれば良い。

 興味・関心を抱いた企業の取り組みについては、その企業のIR情報やプレスリリースなどをより詳しく調査する。DXを構成するAIやIoTなどの要素技術やツールなどの情報を特定したうえで、より詳細な情報を収集していくことを推奨する。

 なお、複数の企業に頻出している取り組みは、その業界または、その年のトレンドとして、各社が最低限実施しているケースであることも多い。それらも併せて必ず追加で調査し事例を収集する。

 DX関連情報は闇雲に収集するのではなく、自社・自事業部に活用でき、即効性のありそうな他社事例を起点に、効率的に収集したい。

DX関連情報は自社の「DXソリューションマップ」に仕立てる

 他社のDX事例を元に、DXを構成する要素技術やツールなど、DX関連情報を収集できれば、それらを自社・自事業部の「DXソリューションマップ」上に体系立てて、現場リーダーの指揮のもと整理していくことが肝要である。

 よくある失敗例として、ある個人が時間をかけて収集したDX関連情報が、その人だけの個人知になっているケースや、情報は共有されているが体系立てて整理されていないために他者の理解が追い付かず組織知として昇華されていないケースが挙げられる。これらを防ぐためには、自社・自事業部におけるDXソリューションマップを整備し、その要素ごとにDX関連情報を整理するのが効果的だ。

 DXソリューションマップを作成する業務担当者はまず、自事業部のハイレベル業務領域・プロセスの可視化から始める。例えばマーケティング部門であれば、「設計」 → 「広告」 → 「サイト流入」 → 「サイト販売促進」 → 「実店舗販売」という一連の業務領域を描き、「セグメント設計」や「効果分析」などの業務プロセスを可視化していく。

 次に、どのような目的のもと、手段であるDXを活用するかを検討する。社内で既にDXによる目指す姿が掲げられていれば、それに整合する形で、なければ全社計画(中期経営計画や年度計画など)や自事業部の事業計画などに整合する形で、DX推進の目的を各現場リーダーが主体となって定義していく。

 図2に、DXソリューションマップの一例を挙げる。こここでは、(1)顧客接点強化、(2)自動化による時間創出、(3)基盤整備という3つの目的を定義している。

図2:DXソリューションマップ(例)

 自事業部でのハイレベル業務領域・プロセスを可視化し、DX推進の目的を定義したら、それらをマッピングし、ソリューションマップのボディを整理していく。他社事例やプレスリリースなどから収集したDXを構成する要素技術やツールなどを「どの目的の」「どの業務領域・プロセス」に該当するかを体系立てて整理し、割り当てていく。これにより自社・自事業部に適したDX施策のアイディエーションが容易になる。

 結果、自ずと想起したDX施策が単なるデジタル化の散発的な積み重ねではなくなり、全社戦略に整合し、業務領域・プロセスにも連動したDX戦略を実行するためのDX施策が創出されていくのである。