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  • DX時代の障壁と突破口

DX推進現場が具備すべきテクノロジー方法論(DXソリューションモデル編)【第6回】

塩野 拓、荻原 健斗(KPMGコンサルティング)
2023年3月20日

これまでに、全社DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けた現場での実践的なアプローチをテーマに、「DX推進標準化モデル」に基づいて「DX戦略モデル」と「DX推進人材モデル」について解説してきた。今回は、DX施策を創出するための最後の軸である「DXテクノロジーモデル」における「DXソリューションモデル」について解説する。

<第6回のポイント>

  • DX施策の創出には、他社事例を収集し、DXを構成する要素技術が何で、どのようなことが、どこまでできるのかを知ることが効果的である
  • 「DXソリューションマップ」は、自社事業部の業務領域・プロセスを分解し、そこに各種ツールや要素技術を当て込み、ビジネス課題に対して、最新のデジタルソリューションメニューの迅速な閲覧・検討を可能にする

 全社DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けた「DX推進標準化モデル」に基づき、第3回では「DX戦略モデル」を、第5回では「DX推進人材モデル」を、それぞれ解説した。しかしながら、DX戦略を策定し、DX推進人材を定義・配置しても、DX施策を創出できなければ“ガソリンのないエンジン”の如く、全社DXは推進できない。

 DX推進のガソリンに相当するのが、DX推進標準化モデルにおける「DXテクノロジーモデル」であり、「DXソリューションモデル」と「DXプロセスモデル」からなっている(図1)。今回はDXソリューションモデルについて解説し、DXプロセスモデルについては次回に解説する。

図1:DX推進標準化モデルと今回と次回に解説する領域

DXの定義があいまいなら「DXを知る」ことから始める

 DXソリューションモデルは、DX先進企業が導入している施策の事例収集から、自社の経営戦略に整合するDX施策に落とし込むためのモデルである。

 同モデルではまず、自社の事業部にDXソリューションを導入するためのアイディエーションの前に、「そもそもDXとは何か」「DXには、どのようなツールや要素技術、導入方法論などが存在するのか」など、それぞれのトレンドや導入の難易度、費用感、他社事例などを現場リーダーの指揮のもと、リサーチすることを推奨する。

 DXに精通している業務担当者であれば、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)/MR(複合現実)などDXを実現する要素技術について、「何がどこまでできて、それらをどのように自社のビジネスモデルや自事業部の業務プロセスに編み込めるか」を、市場調査や他社事例を収集せずとも、概算の工数や費用感なども含めて大局を構想できるだろう。

 しかし、日々の業務に追われ、自身の中でDXの定義自体があいまいな現場リーダーや業務担当者にとっては、まず「DXを知る」ことから始めるのが良い。

 「DXを知る」ためには、自身が興味を持っているDXの要素技術やツールなどの各論から知見を深めるのも良い。だが、「DXとは何を達成するためのものか」「DXとは、どこからどこまでの範囲を指すのか」など、DXを大局的に捉え、自身ならびに自事業部内で言語化することがファーストステップであると筆者は考える。

 DXの確固たる定義や範囲は存在しない。昨今は、数多くの専門家がDXを多面的に解説しているため、まずは、そうした情報を幅広く収集し、自社の状況に鑑みて、仮説ベースでDXを言語化していただきたい。

 このステップを怠ると、例えば、単一作業の単一ステップを自動化するためのExcelマクロから、ビジネスモデルを刷新するためのスマートファクトリー構想まで、定義の幅が広いDX関連情報の渦に飲まれ、本筋を見失ってしまう恐れがある。