- Column
- DX時代の障壁と突破口
DX推進現場が具備すべきテクノロジー方法論(DXプロセスモデル編)【第7回】
OODAサイクルでの早期の効果創出がDX推進の持続性を高める
開発プロセスを効率化することで、OODA(Observe:観察、Orient:状況判断・方向づけ、Decide:意思決定、Act:行動)サイクルを高速に複数回、繰り返すことが可能となり、早期の定着化と効果の刈り取りが可能になる。
早期に効果を創出することで、上長などのステークホルダーからDXに対する理解が得やすくなる。次の活動への支援が受けられるなど好循環が生まれ、DX推進の持続性を高められる。
アジャイル型の特性上、ウォーターフォール型に比べて要件の追加や変更が容易になる。要件が追加で発生した場合も、その影響を最小限に抑えながら開発に組み込める場合が多い。開発中に手戻りが発生することを前提にした方法論であるだけに、業務担当者目線の要望を早期に取り込める点がポイントになる。
ウォーターフォール型では、システムを複数年を費やして開発し、最終フェーズであるUAT(User Acceptance Test)や検収時になって初めて業務担当者が操作したところ、使い勝手が悪く使い物にならないといった悲劇が起こりかねない。そうした悲劇を回避できるアジャイル型は、ビジネス環境の不確実性に対する柔軟性を獲得できると言える。
DXナレッジを共有し“唯一無二”の武器にする
前回から、DXに関する他社事例などの収集、それを基にしたDX施策のアイディエーション、そしてDX施策の設計や導入・構築について解説してきた。最後に、これら一連のプロセスで獲得した知見やノウハウ、TipsなどをDXナレッジとして昇華させ、全社に公開し、全社員が当該情報を再利活用できる仕組みを整備することの必要性について論じる。
他社の成功事例をどれだけ収集したとしても、そのDX施策を自社のビジネスモデルや業務プロセスに置き換えて推進した場合、遅かれ早かれ、何らかの課題に直面することが幾度かあるだろう。
その際は、そうした課題が発生した要因を深掘りし、その要因に対して、どのような解決策を策定したか、または、できなかったのかなどを適宜一覧化しておくことを推奨する。これらの課題とその解決策は、次に創出されるDX施策を推進する上で非常に有益な情報になり、それらが蓄積されることで、自社におけるDX推進を効率的に進めるための“唯一無二”の武器になる。
それらの課題は、「一般的なDX推進上の課題」や「固有のDX施策推進の課題」などに大別する。次に「戦略・方針」「ルール・規程・制度」「プロセス・ガバナンス」「組織・人材」「新規投資・運用費」「データ」「インフラ・基盤」などにカテゴリーを分ける。KPMGが提唱するDX推進の5要素(情報・プロセス・モノ・カネ・ヒト)に沿って整理することも可能だ(DX推進の5要素については改めて解説する)。
さらに、それら課題が、DX施策のライフサイクル上における「アイディエーション」「設計」「導入・構築」「運用・保守」のどのフェーズで発生したのかを一覧化するとなお良い。
これらの一覧表は、DX施策ごとにDX施策オーナー、つまり現場リーダー主導で作成する。それらを定期的に1つのファイルに統合し、全社またはDXステークホルダーに共有・公開することが望ましい。
DXにより目指す姿の実現は、単一のDX施策のみで達成することは起こり得ない。全社一丸となり総力戦でDX関連情報を集約し、その情報を基に1つでも多くのDXの種を芽吹かせていくことが重要なのである。
塩野 拓(しおの・たく)
KPMGコンサルティング パートナー。日系システムインテグレーター、日系ビジネスコンサルティング会社、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門(グローバルチーム)などを経て現職。製造・流通、情報通信業界を中心に多くのプロジェクトに参画してきた。RPA/AIの大規模導入活用、営業/CS業務改革、IT統合/IT投資/ITコスト削減計画策定・実行支援、ITソリューション/ベンダー評価選定、新規業務対応(チェンジマネジメント)、PMO支援、DX支援などで豊富なコンサルティング経験を持つ。
荻原 健斗(おぎはら・けんと)
KPMGコンサルティング マネジャー。製造・流通、金融、ガバメント・パブリック業界を中心にDX構想策定、DXに伴う人材教育・組織変革(チェンジマネジメント)、AI/RPAといった先端テクノロジーを活用した業務改革など、DX推進に関わるプロジェクト経験を多く有する。