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Catena-X、自動車産業のデータ駆動型バリューチェーンを実現する

Catena-X 取締役会 メンバー クラウス・クレマース氏

阿部 欽一
2023年7月26日

ユースケースにフォーカスしているCatena-X

 データエコノミーに対するドイツの現状を示す調査結果がある。2022年に実施された同調査によれば、「2年以内に他社とデータ交換する予定があるか」という問いに対し、「分からない」との回答が65%あった。「交換する」との回答は、わずか8%で、27%は「データを提供、受領する計画がある」と回答した。

 この結果についてクレマース氏は、「現時点ではデータセットに互換性がない、データ共有の相手が分からない、マッチングパートナーがいない、という状況にある」とみる。多くのプレーヤーが、「サプライチェーンに関われない、あるいはデータ共有した場合のデータ所有権はどうなるのか、さらには契約やビジネスモデル、あるいはプライバシーやセキュリティに懸念を抱いているのが現状だ」(同)という。

 そうした状況下にあって、データ駆動型のバリューチェーンであるCatena-Xに最初に参加すべき部門はどこなのだろうか。クレマース氏は「OEM(Original Equipment Manufacturing)はもとより、サプライチェンネットワーク全体、さらには、その先にいる研究開発や部品開発、財務といった部門も、将来的に共有するようになるデータを理解すべきだ」と指摘する。Catena-Xが実稼働すれば、「走行する自動車から得られるデータから生産予測が可能になるなど、データの重要性は、ますます高まっていく」とクレマース氏は指摘する。

 Catena-Xのデータは、今後ますます重要視されるリサイクルビジネスにも活用できるし、CO2排出量の観点からは物流も大きなテーマになる。「営業、アフターマーケットを含め、サプライチェーンを取り巻く“巨大で複雑な”エコシステムのすべてが含まれる」(クレマース氏)。例えば、製品の温室効果ガス排出量を計算するには、製造プロセス全体で、製造機械や物流などに使用する電力など、CO2を発生させている「すべての要素を計算に入れなければならない(同)からだ。

 しかし現状は、「サプライチェーンにおいて、一部の企業がExcelを使って手動で計算している一方で、中小企業は独自のアプリケーションを、大企業はSAPなどのERP(統合基幹業務)パッケージなどを、それぞれが、さまざまなアプリを使っている。これらすべてが互いに通信でき連携可能なデータ共有プラットフォームがなければ「適切な計算モデルができない」(クレマース氏)。

 Catena-Xでは現在、「製品の温室効果ガス排出量を計算するための標準を策定中」(クレマース氏)という。相互運用が担保されたアプリケーションをマーケットプレイスを通じて提供する計画だ。

グローバルに協調できるプラットフォームを目指す

 Catena-Xは、その普及に向けて「ユースケース(事例)を先行させることに注力している」とクレマース氏は話す。大規模なユースケースの1つのに、部品のトレーサビリティがある(図1)。完成車に使われている部品の中には、「特定の素材が広範に使用されていることがある」(同)だけに、トレーサビリティを確保するためには「部品のレジストリにアクセスできなければならない」(同)。

図1:Catena-Xのユースケースはトレーサビリティとパートナーマネジメントから始まった

 こうしたトレーサビリティは、部品の製造に関わるCO2排出量の計算やモニタリング、循環型経済(サーキュラーエコノミー)へ適用のほか、「誰が何を生産できるか、あるいは必要としているかといった需給予測や、より効率的な生産、物流、サプライチェーンの管理と制御にも関わってくる」とクレマース氏は話す。

 そのうえでCatena-Xは、「オープンでコラボレーティブであるべきだ」とクレマース氏は強調する。具体的には、Catena-Xのコアにはオープンソースとし分散型のアーキテクチャーを採用し、「標準を受け入れながら中立的なガバナンスを確保する」(同)考えだ。

クレマース氏による講演動画「『Catena-X』が実現する自動車産業のオープンで協調的なデータエコシステム」をこちらで、ご覧頂けます。