- Column
- 製造DXの最前線、欧州企業が目指す“次の一手”
Catena-X、自動車産業のデータ駆動型バリューチェーンを実現する
Catena-X 取締役会 メンバー クラウス・クレマース氏
「Catena-X」は、自動車のバリューチェーン全体でデータを共有するためにドイツで設立されたアライアンス。業全体の競争力強化やCO2削減などに向けて、必要なデータを安全・安心に交換・共有できるプラットフォームの提供を目指す。Catena-Xのクラウス・クレマース氏が「Industrial Transformation Day」(主催:DIGITAL X、2023年1月)に登壇し、Catena-Xが目指すデータエコシステムの概要と最新の取り組みを解説した。
製造業は、労働人口の減少や、気候変動対策のためCO2排出量の削減、半導体不足に象徴されるサプライチェーンの見直しなど、さまざまな難題に直面している。これら解決するために、データ活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を問うたのがドイツの産業政策「Industry 4.0」だ。
Industry4.0に続きEU(欧州連合)では2019年、異なる企業が業界を超えてデータを交換・共有するための分散型基盤を構築する「GAIA-X」計画を立ち上げた。そのGAIA-Xに準拠し、自動車業界に特化したデータ交換・共有のための仕組み作りに取り組むのが、ドイツを中心としたアライアンス「Catena-X」である。
自動車業界が抱える3つの課題を解決する
Catena-Xの取締役会メンバーであるクラウス・クレマース氏は、Catena-Xが求められる背景として「自動車業界は長期的な危機に面している」と指摘する(写真1)。ちなみに、クレマース氏は、独Siemensのオートモーティブエコシステム担当ディレクターでもある。
具体的な課題としては、(1)自動車業界のサプライチェーンをより強固にする必要性、(2)持続可能性への取り組み、(3)地政学的問題やイノベーションの課題への対応、の3つを挙げる。
課題1:より強固なサプライチェーンの実現
自動車業界は、部品の供給や、自動車の新しい生産方法、使い方の変化、EV(電気自動車)の登場など、緊急性の高い課題をいくつも抱えている。にもかかわらず、「自動車の生産や製造から、原材料の調達までサプライチェーン全体でデータが流通していない」とクレマース氏は問題意識を語る。
具体的には、「サプライチェーン上に存在する多数のパートナー企業の間でデータを共有できておらず、常に1対1の関係になっている。あるサプライヤーがデータを持ち出そうとすると、それ以外のサプライヤーとの間で摩擦が生じる。サプライチェーン全体でデータを共有できるネットワークを構築する必要がある」とクレマース氏は強調する。
課題2:持続可能性への対応
サステナビリティと規制の要件に関する課題である。欧州に限らず自動車産業は、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)や、国連が策定したSDGs(持続可能な開発目標)を理解し、その解決策を講じることが求められている。そこでもデータフローが必要で、「サプライチェーン全体の生産から部品のリサイクルまでのデータを取得する必要がある」とクレマース氏は指摘する。
課題3:地政学とイノベーションの課題への対応
データ交換プラットフォームはこれまで、「1つの仲介ソリューションとして、単一プラットフォームで、すべてのデータを取得し、そのデータを基にビジネスモデルの構築が志向されてきた」(クレマース氏)。しかし、その考え方では、必要な時に必要なデータ交換が難しいことが分かってきた」(同)という。
(100年に1度の変革と呼ばれる)根本的な変化に直面している自動車業界は今、「データドリブンなバリューチェーンのためのデータ交換基盤を必要としている」(クレマース氏)。そこでの最も大事なポイントは、「データ主権」だとクレマース氏は力を込める。「すべてのプレーヤーのデータ主権を担保したデジタルコラボレーションのためのスペースが求められており、それを目指すのがCatena-X」(同)である。
Catena-Xでは、参画するパートナー同士が直接データを交換する。パートナー間を直接接続し、データ主権を担保しつつ、データの表記を標準化する。そのために、「システムの信頼性が重要であり、そのための適切なガバナンス構造を提供することで、関係するプレーヤー全員が参加し情報の流れが途切れてしまうという障壁を克服する」(クレマース氏)考えだ。「将来的には中小企業の参画を後押しするデータプラットフォームに成長させたい」(同)ともいう。
クレマース氏による講演動画「『Catena-X』が実現する自動車産業のオープンで協調的なデータエコシステム」をこちらで、ご覧頂けます。