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- 製造DXの最前線、欧州企業が目指す“次の一手”
独VWグループ、Industry 4.0に沿う工場DX基盤「Industrial Cloud」構築でユースケースを横展開
独VWグループのフランク・ゲーラー氏と独ポルシェのマーク・ゲッケラー氏
独フォルクスワーゲン(VW)グループは、ドイツの産業政策「Industry4.0」に沿った工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。そのための基盤となるクラウド環境「Volkswagen Industrial Cloud」も構築する。VWグループでデジタル生産を率いる2人のキーパーソンが、「Industrial Transformation Day」(主催:DIGITAL X、2023年1月)に登壇し、同グループが進める工場DXの“今”について解説した。
「工場のデジタルトランスフォーメーション(DX)においては、デジタル化のアプローチによって、いかにプロセスと生産ロジスティックスを変革するかがポイントだ」――。独フォルクスワーゲン(VW)グループでデジタル生産とDXの責任者を務めるフランク・ゲーラー氏は、こう語る。
独フォルクスワーゲン(VW)グループは、グローバルな自動車メーカーとして乗用車からトラックまで「PORSCHE」や「Audi」など12ブランドを展開。全世界に119の生産拠点を持ち、関連するサプライヤーは4万社を超える。VWの新CEOであるオリバー・ブルーメ氏も、2022年に策定した事業戦略において、VW自身の改革の必要性を強調している。
経営環境が大きく変わる中、クラウドベースのエコシステムを構築する
VWが掲げる目標は、大きく4つある。(1)より少ない時間・材料で労力を半減させる、(2)変化に対応するためにスピードを2倍にする、(3)環境負荷をゼロにする、(4)世界中の全拠点とパートナーが1つのチームになる、だ(図1)。
そのために、「デジタルやデータ、AI(人工知能)技術などを活用した新しい方法で、需要予測やサプライチェーンの能力開発、高度に自動化されたプロセスなどを実現する必要がある」(ゲーラー氏)
だが、これらの目標に取り組むのは容易ではない。VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代とも言われるなかで、戦争の危機や資材不足など、各種産業に大きな影響を与える事態が次々と発生している。自動車市場は北米やアジアを含め細分化しており、人材不足も大きな問題になっている。透明性の欠如も問題で、ゲーラー氏は「DXによって、サプライチェーンに強靭性と安定性を生み出す必要がある」と強調する。
これらの課題に対応するためにVWが推進するのが、「Volkswagen Industrial Cloud」と名付けたクラウドを活用するアプローチだ。そこには3つの柱があるとゲーラー氏は説明する。
柱1:グローバルでの展開を容易にすること。100を超える生産拠点と、4万のサプライヤーがサプライチェーンに統合されているため、システムには拡張性が必要だ。モジュラー型のアーキテクチャーにすることで、優れたユースケースを世界中で利用可能にしグローバルに展開する
柱2:迅速な開発。クラウドならソフトウェアにモジュールの考え方が適用できるため、共同開発やコラボレーションなどが容易になる
柱3:サプライヤー、パートナー、スタートアップ企業とエコシステムを構築する。そのために包括的な考え方で製造をサポートする。
エコシステムについて、VWグループの独ポルシェでIT & イノベーションマネジメント担当ディレクターを務めるマーク・ゲッケラー氏は「生産現場のデジタル生産プラットフォームとIndustrial Cloudがつながった姿だ」と説明する。
具体的には、「デジタル生産プラットフォームがスタートでありベースになる。作業現場からクラウドにデータを取り込んだうえでユースケースを作成し、そのユースケースを工場から工場へと展開していく。そのユースケースはさらに、VWのエコシステム外にある他社にも提供できる(図2)。こうしてデータを展開できる状況が『Industrial Cloud』である」(同)
デジタル生産プラットフォームの実現に向けた主要なパートナーとしてVWは2019年、AWS(Amazon Web Services)を選択している。「AWSの風土や、人材、技術で実現するイノベーションがVWのデジタル変革に有用と考えたからだ」とゲッケラー氏は話す。
ゲーラー氏とゲッケラー氏による講演動画「独フォルクスワーゲングループにおけるIndustry 4.0に沿った工場のデジタル変革」をこちらで、ご覧頂けます。