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  • データドリブン経営に向けたERP再入門

「役に立たないERP」の正体を暴き“真の価値”を求める日本企業が増加【第3回】

東 裕紀央、船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2024年1月16日

日本企業に起こった変化、2カ月でERP導入を完了する事例も

 残念ながら、これまでのERPを業務アプリケーションとしての役割を重視した導入では、上述したような課題が十分には認識されていなかったとも言える。結果、部分最適な形で業務の効率化などが進んだ側面はあっても、経営管理の高度化や複合型の意思決定のためのデータ活用にまで踏み込めた企業が、ほとんど存在しなかったのが実情だ。

 導入後のバージョンアップにも莫大なコストがかかることもあり、「ERPは金がかかる割に効果が薄い」と考える企業も少なくなかった。こうしたイメージが生まれたことについては、筆者らERPベンダーも反省すべき点である。

 ただし近年は、その状況が変わりつつある。DX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈などから複合型の意思決定が求められていることや、グローバルにビジネス展開する日本企業にあっては、より多様なバックグランドを持つ社員が集まるようになったことで、そこでの意思疎通や合意形成を図るうえでのデータ活用の重要性が増していることなどが、背景にある。

 昨今のERP導入プロジェクトのケースを日本オラクルの顧客事例から、いくつか紹介する。

ウーブン・バイ・トヨタ:2カ月間でERPを刷新

 ウーブン・バイ・トヨタは、トヨタ自動車の子会社で、車載ソフトウェアや実証実験の街である「Woven City」の開発を手掛けている。2021年1月の社内体制の変更に伴い2カ月間でERPを刷新した。

 刷新に当たっては、クラウドERPを採用したうえで、Fit to Standardで導入を進めた。同社のプロジェクトメンバー間でもFit To Standardを合言葉に、「システム導入における最優先事項とは何か」という認識を常に共有するよう心掛けたという。その結果、2カ月間で新ERPへの移行を完了。以降もスムーズな運用を続けている。

UCCグループ:Fit to Standardでの導入でデータの一元化に取り組む

 コーヒー関連事業で知られるUCCグループもFit to StandardでクラウドERPを導入した。複合的な意思決定のための基盤という側面を強く意識してERPを活用している。

 世界の有力なコーヒー生産国での栽培から、原料調達、焙煎加工、販売まで、バリューチェーンを垂直統合してグローバルに事業展開している同社にとって、ビジネス環境変化への対応力を向上させることが急務だった。既存のシステムは業務ごとにデータが散在し、需給計画や在庫管理の手間や精度、リアルタイム性にも課題があったという。

 最新のクラウドERPを導入することで、標準化領域と戦略的な差別化領域を単一のクラウド基盤上で疎結合なシステムとして構築し、変化への対応力を高めた。加えて、第1回で触れた生産と販売の連携など、ビジネスプロセス全体を横断した部門間連携を可能にするデータの一元化に取り組んだ。

日清紡マイクロデバイス:国内外のERPを統一しデータを一元化

 日清紡グループで電子デバイス製品などの製造・販売を手掛ける日清紡マイクロデバイスも、ERPの導入により全社のデータ一元化を図り、高度な経営管理に取り組んでいる企業である。国内外子会社で同一のERPを導入し、業務の標準化・効率化を進めるほか、開発、営業、生産の各部署を横断的に管理できる体制を整えた。

 業務領域だけでなく事業セグメントをまたいでPSI(生産・販売・在庫計画)管理を標準化し、利益を最大化するための需給調整の仕組みも整備している。データを基に常にバリューチェーンの最適化を図れるビジネス基盤を、ERPによって実現しようとしているのである。

 いかがだろうか。冒頭で紹介したような、かつてのERP導入とは全く異なる導入・活用シーンが日本でも広がり始めているのが現状だ。そこでは、繰り返しになるが、複合型の意思決定を実現するための全社データ活用基盤としての期待値が高まっている。

 次回は、複合的な意思決定におけるデータ活用の重要性についておさらいするとともに、データ活用をビジネスの成長につなげるためのポイントを解説する。

東 裕紀央(あずま・ゆきちか)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部 部長

船橋 直樹(ふなばし・なおき)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部