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「役に立たないERP」の正体を暴き“真の価値”を求める日本企業が増加【第3回】

東 裕紀央、船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2024年1月16日

日本においてERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムの導入の歴史は決して浅くはない。しかし、ERPが持つ価値を多くの事業会社が、しっかりと享受できてきたかといえば疑問符が付く。特に「海外ベンダー製品は日本企業にフィットしない」という声が珍しくなかったし、今も聞こえてくる。今回は、日本におけるERP導入の「失敗」の歴史を振り返えることで、ERPを複合的な意思決定のためのツールとして使いこなすための筋道を考えてみたい。

 日本でERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)の導入がブームともいうほどに盛り上がりを見せたのは、1990年代後半から2000年代初頭のことである。業務フローや情報システム、組織などをビジネスプロセスの観点からデザインし直し業務改革を図る「BPR(Business Process Re-engineering)」の流行とともに、それを実行するための仕組みとしてERPが注目され始めたのだ。当時は、各社独自開発シスステムからパッケージシステムへの移行、世界標準の会計基準への適応といった課題も背景にあった。

Fit & Gap型の導入が主流になりERP本来の価値を見失っていた

 ERPの導入手法には大きく、(1)Fit to Standardと(2)Fit & Gapとがある(図1)。

図1:ERPの導入手法における「Fit to Standard」と「Fit & Gap」の比較

 Fit to Standardは、すべての業務をERPパッケージに組み込まれたグローバルスタンダードに合わせる方法論だ。前回、「グローバルなERPベンダーは世界標準のベストプラクティスに基づいた標準ビジネスプロセスのテンプレートを提供するとともに、定期的にアップデートしている」と説明した。この原則に沿えば、Fit to Standardは、ERPのメリットをより享受しやすい導入のための方法論だと言える。

 一方のFit & Gapは、業務をできる限りシステムに合わせたうえで、アドオン(追加)開発によるカスタマイズも許容する方法論である。当時から日本では、このFit & Gapを採用するケースが圧倒的に多く、今も主流派を占めている。日本企業は相対的に現場の発言力が強く、既存の業務プロセスはそのままにERPで置き換えることが重視されるためである。

 そうしたニーズに応えるべく、ERPを提案・導入支援するSI(System Integration)事業者なども、「現行の業務手順をどれだけカバーできるか」という発想でERPの機能表を作成し、その網羅性を製品選択の基準として訴えていた。

 現場からの「この機能がないと困る」という要求に対し、「カスタマイズで実装するのが当たり前」という前提でERP導入プロジェクトを進めた結果、起きたのが、業務の整理や標準化を難しくしたことである。ERPの導入目的にBPRを掲げながらも、実際は既存の業務プロセスをそのまま維持することになるからだ。

 当然ながら、システムで実現する機能要件も膨大になり、大量のカスタマイズやアドオンが発生する。プロジェクトは長期化し、コストも膨らみ、やがて、プロジェクトを完了させることが目的になってしまう。結果、改革・改善にまでつながらないERP導入プロジェクトが乱立してしまったのではないだろうか。

 稼働後も、現場主導のボトムアップでの機能要件に合わせたカスタマイズによってシステムを成長させればさせるほど、業務の見直しや標準化からは遠ざかり、ERPが提供するベストプラクティスから逸脱していってしまう。

 同時に、部署をまたいだデータの活用もしづらくなる。ERP上では業務領域ごとのモジュールがシームレスにつながってはいても、どのようなデータを、どのような形式や粒度で揃えるかという社内基準がバラバラのままになるからだ。基準が全社で統一されていなければ「データの一元化」が実現されず、データは集まっても、本連載のテーマである「複合型の意思決定」には使えない。