• Column
  • シン・物流、DXで変わるロジスティクスのこれから

デジタル時代が求めるシン・物流の4つの基本領域【第1回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年1月10日

領域1:輸配送

 輸送は物流の最も重要な骨格となる基本機能です。「モノを運ぶこと」については、輸送の他にいくつかの概念があります。短距離・小口の端末輸送は「配送」と呼びます。物流センター内の移動などは「運搬」です。そして「運送」は有償で他者の貨物を運ぶことを指します。

 輸送に関わる大きな課題として「2024年問題」が挙げられます。これまで法的な上限がなかったトラックドライバーの労働時間に対し、2024年4月から年間960時間という上限が設定されます。ただでさえ労働人口が不足している中、トラックドライバーが大幅に不足し、物流コストが上昇すると予測されています。
この課題を2024年問題と呼びます。

 ドライバーの年間上限を守るために物流業界では、鉄道輸送や海上輸送の導入や、複数のトラックドライバーが長距離輸送を分担する「中継輸送」などへの切り替えを進めていく方針です。合わせて貨物輸送体系全体のデジタル化も進める必要があります。

領域2:保管・在庫

 保管は、生産と消費の時間差を埋め商品の供給を調整する機能です。ただ近年は、「単にモノを保管する」だけではなく、商流に備えてモノを保管する「在庫」の視点からの戦略的な管理の必要性が高まっています。

 言い換えれば、「どこに何があるのか」という倉庫内の保管状況を可視化するだけでなく、「どのような取引で、どれくらいの物量を、どこに動かせばよいのか」といったサプライチェーン全体での在庫管理が重要になってきています。

 サプライチェーン、すなわち取引の流れは複雑化を増しており、それを反映した在庫管理は手作業では困難です。デジタル化は必須であり、AIなどのテクノロジーの進歩とDXの浸透による高度化が期待されています。

領域3:物流センター業務(荷役・物流加工)

 「荷役(にやく)」とは、輸送した貨物を保管したり、保管してある貨物を輸送したりする際に生じる“つなぎ”の作業を指します。物流センターなどで実施する貨物の加工などを「物流加工」または「流通加工」といいます。シン・物流では、これらの機能を「物流センター業務」という枠組みの中で、まとめて考えていく必要があるでしょう。

 トラックが物流センターに運び込んだ貨物は、積み下ろし後に入荷検品を経て、格納されます。その後、出荷依頼に基づいて、ピッキング・仕分け・出荷検品が行われ、店舗や営業所などに向けて物流センターから出荷されます。この一連のプロセスにデジタル技術を組み込み、高度なマテハン機器を活用して自動化を進めていかなければなりません。

領域4:包装・梱包

 包装・梱包は、輸送、保管、物流センター業務の3領域の機能を円滑に行うために必要不可欠な機能であり、シン・物流では、DX武装の起点に位置付けられることも少なくありません。

 輸送包装として段ボール箱などを活用すれば貨物の保護や区分けが容易になり、パレットやコンテナなどを利用して荷姿を整えます。シン・物流では、これら段ボール箱やパレット、コンテナなどの物流容器にRFID(ICタグ)を装着し、トレーサビリティや在庫管理に活用することで物流効率を飛躍的に高められると考えられています。

シン・物流革命の流れに乗り切り企業競争に打ち勝つ

 これら4領域は相互に影響を与え合っている。それだけにシン・物流では、サプライチェーン全体での最適化、物流の効率化が求められます。ですが、そのすべてを一度に改善していくことは、コスト面だけを考えても容易ではありません。

 そのため、まずは、それぞれの領域に固有の課題を抽出し、デジタル技術の導入によって解決しながら、シン・物流のフレームワークを確立していく必要があります。企業競争に打ち勝つ基軸として、シン・物流革命の流れに乗り切らなければならないのです。

 次回からは、4つの基本領域のうち、まず輸配送領域におけるシン・物流について解説していきます。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学 生産工学部 マネジメント工学科 教授。物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村 康久との共著、NTT出版)、『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木 邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。