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ラストワンマイルを支える宅配便のデジタル化【第3回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年2月7日

配達日時の事前通知・確認で在宅率を高める

 配送に先立ち、配達予定日時をメールで通知します。受け取る側は、その段階で受け取りの可否や日時を変更できます。消費者は、不在票を見てから配達ドライバーやコンタクトセンターに電話して再配達日を設定しなくて済みますし、ヤマト運輸にしても不在率を下げられます。

 先行通知に伴う受取日時の変更はもちろん、それでも不在になってしまった際の再配達日の設定はネット上で完結します。再配達については、セールスドライバーやコンタクトセンタへの電話でも依頼できます。デジタルが苦手な消費者は電話を使うでしょうが、ネット通販を利用する購入者であれば、かなりの高確率でネット上でのやり取りが主になっていくでしょう。

 またヤマト運輸は、オートロック付きマンションの置き配対策として「マルチ デジタルキープラットフォーム」を開発・導入しています。同プラットフォームも、荷物の発送当日に配達予定をメールやLINEなどで通知します。消費者はは通知文にあるリンクから指定のページにアクセスし受取日時や場所を必要に応じて変更します。

 マンションに到着した配達ドライバーは、専用アプリケーションを使って配達荷物に添付されたバーコードをスキャンすることでオートロックを解錠しマンション内に入ります。荷物を指定場所に置いたら、それを撮影します。撮影データをメールなどで顧客と共有します。

 なおヤマト運輸は、宅配便の発送手続きをスマートフォンで完結できるサービス「宅急便をスマホで送る」も展開しています。配達だけでなく発送に関してもデジタル化を進めているわけです。

宅配便企業がネット通販物流DXのプラットフォームを構築

 宅配事業者側の取り組みと並行して、宅配ボックスや駅・スーパーなどに設置されている宅配ロッカーのデジタル対応も進んでいます。クラウド上にあるプラットフォームにつなげることで、スマートフォンなどからの遠隔操作が可能になります。デジタル化されたスマート宅配ボックス(ポスト)では、荷物の受け取りだけでなく、そこからの発送も可能です。

 もっとも、ヤマト運輸のEASYやスマート宅配ボックスを有効に機能させるためには、単に対消費者向けのシステム/サービスを開発・運用すれば良いわけではありません。配達日時の指定によっては、営業所などに荷物を留め置く必要もあります。それらを含めた配送を最適化するためには、消費者とネット通販事業者、配送/物流事業者が荷物の動きを共有できるようシステムの連携が不可欠であり、より柔軟な連携をうながすためには、汎用性の高いAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を備えた共有プラットフォームの構築が求められます(図2)。

図2:ネット通販事業におけるシステム連携を可能にするAPIプラットフォームのイメージ

 今回説明したラストワンマイル対策は、宅配便だけでなく、利用者数を増やしているフードデリバリー分野でも進んでいくことは間違いありません。消費者物流という観点では、引っ越しのための物流においてもデジタル化が進んでいくはずです。引っ越し分野では、配送作業者が身に付けるアシストスーツや、一部作業を代替するロボットの導入なども考えられます。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology、 Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。