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ラストワンマイルを支える宅配便のデジタル化【第3回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年2月7日

ネット通販(EC:電子商取引)市場の拡大などにより宅配便は社会のインフラとしての重要性をますます高めています。一方で、消費者世帯にまで届ける、いわゆる“ラストワンマイル”では「不在問題」に悩まされています。確実かつ配送業者側にも負担のないラストワンマイルを実現するためには、デジタル技術を活用したより緻密な情報システムの構築が必要になります。今回はラストワンマイルを支える宅配のDX(デジタルトランスフォーメーション)について解説します。

 一般消費者がネット通販(EC:電子商取引)で商品を購入すると、在庫拠点であるフルフィルメントセンターで受注が処理され方面別に出荷されます。荷物はいったん宅配便事業者の営業所を経由し、配達ドライバーの担当エリア別に細分化されます。そうしてようやく荷物は消費者世帯に届くのです。

 しかし、営業所から消費者世帯までの、いわゆる“ラストワンマイル”を担う宅配というビジネスモデルは常に「不在問題」に悩まされてきました。共働きや1人暮らしの単身世帯が多い大都市近郊では、平日の日中などに配達ドライバーが荷物を届けても不在のため再配達を余儀なくされてきました。

 受取手が不在の場合、受領印をもらえない配達ドライバーは荷物を営業所に持ち帰り、営業所で預かることになります。再配達でも不在であれば、同じことを繰り返さなければなりません。再配達率が高くなれば、宅配便事業者はコストアップに悩まされることになります。

 その救世主にもなったのが「置き配」です。不在時には荷物を玄関先などに置くことで配達を完了する方法で、コロナ禍以降、急速に広まりました。コロナ禍による非対面の推奨なども普及の追い風になりました。

 ただ置き配は、荷物が玄関先に置いたままになるため、「荷物が盗難されないか」「雨風などで濡れたり、紛失したりしないか」など、盗難、破損・汚損といったセキュリティ面のリスクや不安を完全には解消できないのは事実です。そのため、コンビニエンスストアなどでの店舗受取りや、宅配ボックス・宅配ロッカーなどの仕組みも広がってきています(図1)。

図1:不在再配達問題の解消に向け置き配などの採用が広がっている

 一方、地方や離島などでは、物流用ドローン(ロジスティクスドローン)を使っての配送への取り組みが始まっています。宅配便ドライバーの不足問題への対策としての期待もあります。近い将来には、ドローンに配送ルートの最適化アルゴリズムを組み込むことで、人が操縦しない自律的な飛行による宅配も実現させることでしょう。

不在時の再配達対策を強化するヤマト運輸

 種々の形態での置き配を含め、再配達に関する課題解決や、その効率を高めるためには、多面的にデジタル技術を活用しながら、配送のための情報システムの高度化を図る必要があります。実際、大手宅配便事業者は情報システムの高度化を進めています。ヤマト運輸が、その1社です。

 ヤマト運輸は配達受取システム「EASY」を運用しています。Amazon.comやYahoo!ショッピング、zozotown、UNIQLO、PayPayモール、mercari、ヤフオク!、PayPayフリマなどのネット販売事業者に提供することで、それぞれの荷物を宅配する際に再配達になるケースの削減を狙います。

 まず多様な受取方法を提供しています。対面、宅配ボックス、玄関ドア前、車庫、ガスメーターボックス、物置、自転車のかご、建物内受付/管理人預けに対応しています。選択した受取方法は配達直前まで変更が可能です。例えば、天候が悪化してきたので玄関前の置き配を車庫に変えるなどです。ちなみにメーターボックスや自転車かごは玄関先よりは盗難リスクが低くなると考えられています。