• Column
  • シン・物流、DXで変わるロジスティクスのこれから

在庫を可視化し庫内業務の効率を高めるロケーション管理【第7回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年4月4日

デジタル化が進めば伝票類のペーパーレス化も進む

 具体的には、受注時はまず、オーダーエントリーにより受注情報を登録します。注文を受け付けてデータをインプットしたうえで、与信限度や割当枠などを確認し在庫を引当てます。顧客ごとに価格が異なる場合などでは、別決め価格などを確認・決定してから発注情報を登録します。

 その受注情報に基づきピッキングリストを作成します。ピッキングリストは、(1)注文別に棚番号に沿って作成する「シングルピッキングリスト」や、(2)複数の出荷情報から商品点数を合わせて出力し客先ごとに2次仕分けをする「トータルピッキングリスト」に対応して出力します。物流センターの仕分けスペースなどで出荷先別の仕分けが完了すれば、輸配送指示に基づいてトラックに荷が積み込まれます。

 近年はピッキングリストをスマートフォンなどから確認できるようにするなどペーパーレス化も進んでいます。さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでいれば、出荷案内書や納品書、受領書といった物流伝票をドライバーが持参することなく、クラウド上にあるデータのやり取りで済ませられます。

 ドライバーが納品に当たり受け取る受領印も、工夫次第でデジタル化が可能です。納品完了報告もクラウド型システムなどを介して、出荷情報を処理するケースやビジネスモデルも増えています。物流伝票をペーパーレスにできれば相当なコスト削減と効率化が図れると期待されます。

 これら受注から納品までの一連のプロセスの中では、発注日付や発注番号、納期、支払条件などのデータが更新されたり加えられたりもします。ビッグデータ化する大量の情報をリアルタイムに処理できる環境も必要になります。

庫内オペレーション全体のレベル向上が期待できる

 自動化が進んでいる倉庫では、EC(電子商取引)物流などへの対応を前提にした技術革新が進んでいます。特に近年は、マルチシャトル式の需要が増えています。マルチシャトルとは、ピッキングした物品を任意の場所に一時保管したうえで適時、作業者の手元に運搬します。保管機能と運搬機能を同時に併せ持つことになります。

 ECの多頻度小口出荷に対応したロボットストレージシステムの採用も増えています。格子状のグリッド上に専用コンテナを搬送させる仕組みで、作業者は移動することなく入出庫作業が可能になります。

 もちろんAI(人工知能)技術の導入も進展しています。出荷頻度や作業動線などを元に最適な物品の保管ロケーションや、最短の作業距離による作業順路が提案されるようになってきています。AI技術を使った情報管理を徹底できれば、従来に増してフリーロケーションを採用可能になり、空間のさらなる利用効率の向上が可能です。保管効率に加え、入出庫実績や出荷頻度などにも配慮できるようになります。

 さらにセンター全体にロケーションを設定することで、パレット単位やロケーション単位で「品質検査済み」「品質未検査」といったステイタスも管理できます。ステイタス管理とは、商品の品質・等級・鮮度などを管理することです。

 例えばアパレル業なら、良品・保留品・不良品・廃棄品などと商品のステイタスを管理します。破損してしまった商品のステイタスを良品から不良品や廃棄品などに振り替るケースもあります。

 ロケーション管理の可視化が徹底されれば、迅速な荷合わせ出荷であるクロスドッキングをこれまで以上に円滑に行えるようになります。クロスドッキングは事前の出荷通知(ASN)をベースに行われます。入庫検品ではASNと実際の入庫品目をチェックすると同時に、商品をクロスドッキング分と補充在庫分とに仕分けします。

 ピッキング作業においても、高度なロケーション管理の導入により、標準化と効率化が実現できます。初心者でも熟練者と大差のない作業効率が期待できます。

 このようにロケーション管理における可視化の徹底により、庫内オペレーション全体のレベル向上が期待できるのです。さらには在庫管理だけでなく、入出庫、ピッキング、仕分けの各作業の効率化が進みます。そこでは、RFIDタグやAIなどの技術を取り込みながら、サプライチェーン全体でロケーション情報を共有することが大きな流れになっていくでしょう。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。