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- シン・物流、DXで変わるロジスティクスのこれから
庫内作業を無人化する自動運転フォークリフト(AGF)の活用とシン・WMSの必要性【第8回】
レガシーな倉庫管理システムではリアルタイム対応が難しい
しかし、AGFを起点とした無人化オペレーションをリアルタイム処理で円滑に処理するには現行のレガシーなWMSシステムだけでは限界があります。リアルタイムの情報処理と、常に迅速な対応が求められる庫内設備のアクティブな管理が難しく、AI技術を使っても、自律的な状況判断ができないらです。
ただ、レガシー型WMSのAI活用型へのアップグレードは難しく、AI対応のマテハン機器を制御・実行するためには結局、最新型のWMSシステムを導入しなければなりません。しかし、レガシーなWMSをいかにリニューアルするかという課題は、既存システムを動かし続けなければならないという現状を考えれば、その課題単独で解決するという切り口では実現は難しいといえます。
AGFとの連携ではWCSとWESを加えた「シン・WMS」が必要
それらの解決策として浮上しているのが、WMSの下位システムとして、WCS(Warehouse Control System:倉庫制御システム)とWES(Warehouse Execution System:倉庫運用管理システム)を導入することです。
WCSは、マテハン機器やAGV、ロボットなどを遠隔制御するためのシステムです。完全自動化を目指す物流センターでは、省力化や無人化に欠かせないシステムとして、その必要性が指摘されています。WCSにより、自動化した一連の作業をコントロールし、庫内全体の最適化を進めるのです。
一方のWESは、庫内にいる作業者などのヒューマンリソースの管理や最適な配置を指示するためのシステムです。AI技術を使った作業最適化やデジタルツインによるバーチャル空間の作成を支援します。庫内の各種作業を数値化し、その分析から最適解を導き出す、いわば庫内の“司令塔”ともいえます。
庫内の設備管理をWCSが、人的管理をWESが担うという両輪体制を構築し、その充実を図ることがレガシーシステムからの脱却においては不可欠です。WMSにWCSとWESを加えた仕組み全体が、AI対応した「シン・WMS」だと言えます(図1)。
米国では、レガシーなWMSの多くが、音声物流システムに対応していないことが問題になっています。そこでもWCSを導入し、AI型WMSと連携させることで円滑な運用を可能にする仕組みが登場してきています。
シン・WMSとERPシステムの連携も必要に
シン・WMSの実現に加え、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)などの上位システムとも、入出荷の予定や実績に関する情報や在庫情報を共有する機能が求められてもいます。図2はERPシステムを頂点に、その下にWMS、さらにその下にWESとWCSを連動させたイメージです。
物流センターの無人化によるシン・物流を実現するための当面の目標は、プログラムによる自動走行が可能なAGFやAGVといったAI系マテハン機器をWESとWCSで制御することです。AGF/AGVの導入により、物流センターのランニングコストは大幅に削減できます。作業精度についてもヒューマンエラーの減少が期待できます。今後の普及によりイニシャルコストが下がれば汎用性も高まってくるはずです。
鈴木 邦成(すずき・くにのり)
日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。
中村康久(なかむら・やすひさ)
ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。