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循環棚卸を自動化するロジスティクスドローンと屋外活用に向けたハイウェイ構想【第9回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年5月9日

トラックとの連携輸送も可能にする「ドローンハイウェイ構想」

 ドローンの輸送機能には、トラック運送事業者も大きな期待を寄せています。特に関心が高いのがトラックとドローンのハイブリッド輸送です。ゼンリンが持つ準天頂GPSシステムを利用すればドローンの着陸精度を、通常のGPSならメートル単位なものを、センチ単位にまで低減できるため、走行中のトラックにドローンを使って空中から荷渡しするのです。

 トラック車両は今後、自動運転や輸送システムなどとの連携から多機能化・高価格化が進む可能性があります。新しいトラックに大量に切り替えるにはキャッシュフローも悪化します。しかしドローンなら、トラックに比べ、かなり安価に導入できます。つまり輸送の自動化において、自動運転トラックは多額の初期費用に悩ませられますが、ドローンなら多頻度小口配送を中心に安価に実現できるというわけです。

 そうしたドローンの利用を実現するため仕組みに「ドローンハイウェイ構想」があります。デジタル地図大手のゼンリンと、東電ベンチャーズ、楽天が協力して進めるもので、ドローンの安全な運行のための「空の道路地図」になるデジタルプラットフォームの構築を目指します(図2)。

図2:ロジスティックスを屋外でも利用する「ドローンハイウェイ構想」の概念

 ゼンリンは、日本全国の住宅一戸単位の詳細な地図情報を2次元と3次元でデジタル化したビッグデータとして保有しています。この地図データに、人口統計情報や機体ログ情報、電波強度情報、有人機情報、気象情報を統合し、そこからドローンの飛行リスクになる可能性のある各種情報をAPIを通じて外部システムにリアルタイムに提供できるようにします。

 一方、東電ベンチャーズは、送電線や送電用鉄塔といった電力設備のインフラをドローンのための航路への転用を進めます。電力設備インフラの周辺には住宅や道路が少なくドローンが飛行しやすく、一般の航空機の航路を妨害するリスクも最小限に抑えられるため、例えば、送電線ネットワークをドローン配送ネットワークとリンクし安全な航路として確保します。

 さらに電力会社は、日常業務として送電線に流れる電流値をリアルタイムに把握しているため「どれだけの距離をおいてドローンが送電線から飛行すれば安全か」を知ることができます。変電所もコンパクト化の傾向にあり、遊休地を利用したドローンポート(港)に構想もあります。

 また楽天は、ドローンを離島や過疎地などの買い物弱者に向けた配送や、再配達時に時間がかかる高層マンションへのラストワンマイル配送、ゴルフコースでの活用などを対象にした実証実験を進め、完全な導入の方向性を打ち出しています。

 このようにロジスティクスドローンは、単にハードウェアとしての運搬機能を提供するだけでなく、クラウドからの管理の下に自律的に航行し、画像認識や位置情報などのシステムと連携することで、物流分野において果たせる可能性を、より広げていくことでしょう。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。