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循環棚卸を自動化するロジスティクスドローンと屋外活用に向けたハイウェイ構想【第9回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年5月9日

EC(電子商取引)市場の拡大を背景に、ニッチな商品を確保するロングテール在庫の増大が続いています。そこで課題になるのが棚卸作業です。実在庫とシステム上の在庫を突き合わせる作業ですが、その作業を自動化する策として期待が高まるのがドローン(無人機)です。屋内での利用に合わせた「ロジスティクスドローン」が登場してきています。ドローンとトラックを組み合わせて利用するための「ハイウェイ構想」も検討されています。

 物流センターにおける固定ラックを対象にした実地棚卸には、一斉棚卸と循環棚卸とがあります。前者は、物流業務を停止し全ラックを一斉に棚卸しする方法です。後者は、在庫の種類や場所、作業日などで対象のラックを分けて棚卸する方法で、業務を完全に停止する必要はありません。いずれにおいても、実際の在庫とコンピューターシステム上の在庫を迅速に突合します。

 天井高6メートル、4積みなどのラックを対象にした棚卸作業には、相当の時間を要します。人力による棚卸しを日中に作業すれば、他の作業効率を著しく低下させるだけに、循環棚卸は夜間作業などを余儀なくされています。加えて、高所作業もあるため、作業者の転落事故などにも注意する必要があります。

 こうした現状から、棚卸し作業を自動化する手段として期待されているのがドローン(無人機)です。無人環境下で、迅速かつ安全な運用が考えられており、その実現は既に秒読み段階にありますが、現時点の技術レベルを考えれば、まずは範囲を絞り、夜間の循環棚卸において当面は、出荷頻度が低く荷動きが遅いEC(電子商取引)向けのロングテール在庫を対象にするのが適切でしょう。

画像解析技術の向上で屋内でも自らの位置や姿勢の把握が可能に

 ドローンの運行システムは、GPS(全地球測位システム)などの位置測位技術、通信技術、カメラ、そしてクラウドから構成されます。ほとんどのドローンの活躍シーンはこれまで、GPS電波を取得できる屋外が中心でした。しかし物流センター内ではGPS電波が到達しないところがほとんどです。そのため自己位置の補足が困難であり、倉庫内でのドローンの自律飛行・自動飛行には技術的な課題が残っていました。

 それが近年、カメラの高度化とAI(人工知能)技術を融合した画像解析により、非GPS環境でも自分の位置や姿勢、周辺の物体の位置情報を3次元で把握できるようになり、屋内での自律飛行が可能になりました。米国シリコンバレーのスタートアップ企業が開発した仕組みです。

 倉庫内での利用を想定したドローンは「ロジスティクスドローン」と呼ばれています。高画質カメラを搭載し、AI画像解析技術により障害物までの距離半径が数十センチメートルまで接近できため、物流センター内での飛行に問題はありません。ドローンで課題になる飛行時間については、庫内に充電台を設置し飛行後は自動で充電台に戻り給電することで解決しています。

 ロジスティクスドローンを使った循環棚卸の作業手順は、次のようになります。まず自動で離陸したドローンは、搭載したカメラで固定ラック内にある在庫品のバーコードを撮影し、その画像データをクラウドに送信します。クラウド上では、その画像データを解析し、パレットの種類や個数を算出します。

 クラウド側で算出した検品データはAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)によりWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)と連携し、倉庫内の、いつ、どこに、何があるかのリアルタイムな把握を可能にします(図1)。

図1:ロジスティクスドローンを使った倉庫での循環棚卸の例

 循環棚卸の指定エリアを周遊したドローンは、充電器が設置されている所定のドックに帰還し、次の飛行に備えて充電を開始します。

 ロジスティクスドローンは、一斉棚卸にも利用可能です。ただし、ドローンの運用には充電なども含めた検証が必要なことから、まずは負担の少ない循環棚卸における一部在庫から適用し、システムトラブルなどがないことを確認したうえで、全面在庫に、そして一斉棚卸に切り替えていくのが望ましいでしょう。そのため国内企業がロジスティクスドローンを棚卸作業に本格導入するには、もう少し時間がかかるであろうことも付け加えておきます。