• Column
  • シン・物流、DXで変わるロジスティクスのこれから

ピッキング作業の効率をデジタル技術が高める【第13回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年7月4日

AI技術を活用したピッキン補助グロボットの導入も

 DPSの導入は、大規模なピッキングには適しているものの、小回りを必要とする小口のピッキングには不向きだとも考えられています。そこで近年、多くの物流センターが導入を検討しているのが、ピッキング補助ロボット(AMR:自律走行搬送ロボット)です。

 ピッキング補助ロボットは、クラウド上に構築されたロボティクスプラットフォームからの指示を受けて動作します。ロボティクスプラットフォームは既存の業務システムや外部システムと連携し、ピッキング補助ロボットの動きはデータ化・可視化されます。

 現場の規模にもよりますが、庫内作業のほとんどをピッキング補助ロボットに任せるのではなく、まずは少数台を導入し人手による作業を補完しながら、必要に応じて導入台数を増やすというステップを踏むケースも多いようです。

 技術革新の観点から象徴的と言えるピッキング補助ロボットの1つが、ノルウェーのオートストアが開発した「AutoStore」です。荷物をストックする専用の小型コンテナを格子状のグリッド内に、出荷頻度などを考慮に入れて、積み上げることで収納の高密度化を図り、その専用コンテナを走行ロボットが搬送します。小物商品などの管理に優れており、庫内の在庫面積を大幅に削減できるなど、省スペースでの高い保管効率と迅速なオペレーションが期待されています。

 AutoStoreが注目されるのは、その機能とスペックがネット通販時代の物流効率化に適しているからでもあります。多頻度小口の出荷量が多いネット通販の物流はピッキング作業者泣かせでもあります。ピッキング作業は煩雑になるにもかかわらず速度と正確性が求められるからです。庫内作業者の人手不足も深刻化しています。

 設置スペースや設置形状に大きな縛りがないAutoStoreは、大規模な通販向け物流拠点であるフルフィルメントセンターだけではなく、重要性が高まっているマイクロフルフィルメントの拠点にも導入が可能です。

ピッキングシステムの自律的な動作が自動化・無人化を促す

 ピッキング作業はこれまで人海戦術の代表例であり、そのためにかかる人件費が物流コストを押し上げていました。従来、ピッキング作業の負荷軽減のための有力な選択肢は、庫内での作業者の歩行・運搬をなくすローラーコンベヤーやベルトコンベヤーでした。

 ただ電気代などのコストが高く、導入が躊躇(ちゅうちょ)されるケースもありました。最近は、省エネタイプのコンベヤーも開発されています、コンベヤーにAI技術を埋め込み、運搬作業の最適化に向けた可能性も広がってきています。コンベヤー上にバーコード読み取りゲートを設置したり、コンベヤーから出荷情報などを入手できるシステムが開発されたりしています。搬送速度などを柔軟に変えられるコンベヤーもあります。

 シン・物流時代に突入し、ピッキング作業においてもAI技術を使って細かい指示を自律的に出せるようになりつつあります。今後は、完全自動化・無人化が進み、物流システムの高度化・効率化がなされ、物流コストの低減につながる可能性が出てきています(図2)。

図2:物流センター無人化の推進力としてのピッキングシステムの高度化

 ピッキングシステムがAI技術により完全に自律的に動作し、あたかも自ら意思を持つかのように作業全体を制御できるようになるには、もう少し時間が必要でしょうが、その方向性は確実に固まってきているのです。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。