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物流センターの事務作業時間を増やす伝票処理をRPAで自動化【第15回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年8月8日

RPAとAI技術の連携が、さらなる自動化を可能に

 近年は事務処理にAI(人工知能)技術を活用する動きが高まっています。RPAツールにも最近はAI技術を取り組む動きが出ています。元々のRPAは、機械学習などにより学習していくことはなく、プログラムが状況の変化に自律的に対応することはありません。そこで、データ取得などの旧来のRPAの領域に、AI技術を加味することで自律的なオペレーションにつなげていくのです(図2)。

図2:RPAとAI技術の連携により自律化を図る

 例えば、アルバイトやパートなど作業者のシフト管理は、人数が増えれば増えるほど、それぞれの勤務時間などの都合を配慮しなければならず、シフト作成担当者は、より多くの時間を割かなければなりません。近年は特に、労働力が多様化し、高齢者や女性、外国人など、これまでは作業に従事してこなかった人材が、土日・祝祭日や短時間勤務、あるいはイレギュラーな勤務時間でのシフトを希望するケースが増えています。複雑化する一方のシフト管理に、手作業ではなく、AI技術を使って対応するわけです。

 在庫のロケーション管理でも、出荷頻度や作業動線などから、最適な物品の保管場所や最短の経路に作業順路の提案などにAI技術が導入されるようになってきています。

 さらに今後は、量子コンピューティングの活用が期待されています。次世代コンピューティングの最有力選択肢とされる量子コンピューターが持つ、より高速な計算能力により、シミュレーションによる物流の最適化が現実味を帯びてきているのです。

 例えば調達物流において、サプライヤー数が数百を超え、複数カ所のパーツセンターを経由して、50~100カ所の工場に納品するとすれば、輸配送ルートの組み合わせは数百万にもなります。そのうえでトラック総数や総走行距離数、仕分け作業分類などを含めて物流コストの最適化を図ろうとすれば、計算には莫大な時間がかかります。

 そこに量子コンピューティングを利用すれば、計算速度とシミュレーション精度の向上が図れます。既に量子コンピューティングを使ったシミュレーションにより、トータル物流コストを2~5%程度削減できるという試算を弾き出している企業もあります。

定型業務の自動化は「完全自動化への入口」

 このようにみれば、RPAは「完全自動化への入口」だとも言えます。定型業務をRPAを使って自動化されている現場は、AI技術を導入するうえで極めて好都合な環境とも考えられるからです。

 来るべき、量子コンピューターや6G(第6世代移動通信システム)時代には、望むべき業務達成目標を入力すれば、AI技術が達成までのプロセスを自動生成するようになると考えられています。RPAにより定型的な事務処理の効率化・自動化が実現できて入れば、将来的なAI連携によって、自動化を自律的に展開していく、すなわち「システムが自ら考えて、最適な事務処理を実行する」方向に進んでいくという可能性が見えてきます。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。