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定温輸送ニーズの高まりがトレーサビリティの高度化を求める【第17回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年9月5日

医薬品の国際輸送では適正流通のガイドライン順守が求められる

 リーファーコンテナは、空輸だけでなく、海上輸送や、トラック・鉄道による陸送にも使われます。対象になる貨物も、ワインなどの酒類だけでなく、食品や飲料水、医薬品などがあります。

 特に医薬品の国際輸送においては、GDP(Good Distribution Practice:適正流通)のガイドラインを守らなければならないという厳しい制約条件が課されます。GDPとは、医薬品が製造工場からの出荷後、患者の手元に届くまでの流通プロセスにおける品質保証を目的とした指針であり、そのガイドラインによって医薬品物流の標準化が進められています。

 ガイドラインは、温度管理はもとより、流通プロセスの適正管理、偽造医薬品の防止など、輸送プロセス全体でしっかりと定温輸送が行われたという証明を求めます(図2)。一定の容積の空間温度の分布状況を調べる温度マッピングも、医薬品倉庫や冷凍冷蔵車などには不可欠な機能です。

図2:医薬品のGDP(Good Distribution Practice:適正流通)の対象範囲

 例えば、関西国際空港などの運営会社である関西エアポートは、医薬品航空輸送品質認証制度「CEIV Pharma」による認証を、物流関連企業を加えたコミュニティとして取得しています。これにより、貨物の引き取りから航空機への搭載までの一連の輸出プロセスや、空港到着から配送先・納品先までの一連の輸入プロセスに対するGDPを実現しました。医薬品貨物の航空輸送スキームにおける徹底した温度管理を前提とした高品質な医薬品のサプライチェーンの構築と実践を可能にしたのです。

 医薬品産業の物流においては、IoTデバイスとブロックチェーン技術を活用したプラットフォームを構築する構想もあります。モノの流れと物流品質のトレーサビリティの確立に加え、商流にも物流のためのトレーサビリティデータを生かすことを目的に、業界横断型のコンソーシアム(共同事業体)を視野に入れた取り組みです。

トレーサビリティの充実がシン・物流を進展させる

 近年の物流では温度管理の対象範囲が広がり、食品、医薬品以外にも定温輸送を取り入れ、品質劣化リスクを回避する傾向が強くなっています。定温輸送を確実に実施していくために、貨物の温度状況をリアルタイムに管理するようになってきています。温度管理の視点からトレーサビリティが再評価されているとも言えます。

 言い換えれば、トレーサビリティを充実させ、リーファーコンテナの活用範囲を広げることが、シン・物流を大きく進展していくことになります。「製造元での出荷から消費者の手に届くまでの物流工程全体で温度を設定し、それがしっかりと順守されているかどうかを入念にチェックし、その履歴をクラウドに残していく」ということが求められる時代になってきているのです。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。