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定温輸送ニーズの高まりがトレーサビリティの高度化を求める【第17回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年9月5日

デジタル技術を活用するシン・物流のポイントの1つに、製品の輸送プロセスの可視化があります。製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を高めることで、事故やトラブルが生じた際の原因究明を可能にします。今回は、コンテナ輸送におけるトレーサビリティの展開について、冷蔵機能を持つ「リーファーコンテナ」を中心に解説します。

 こんな話があります。フランス産ワインをA社とB社が空輸で直輸入し日本で販売しました。両社、同じ品種、同じ畑のブルゴーニュワインです。ところが飲み比べてみると、ソムリエでなくても両社のワインの違いは一目瞭然でした。同じワインにもかかわらずA社が扱ったワインが圧倒的においしかったのです。

 にわかに信じられないような話ですが、そこには大きなカラクリがありました。A社は「リーファーコンテナ(冷蔵機能付きコンテナ)」を使った定温輸送でワインを輸入していたのです。リーファーコンテナは、庫内温度をマイナス30℃からプラス30℃まで0.1℃単位で設定できるコンテナです。

 ワインは温度に敏感な飲み物です。空輸の場合、常温対応の「ドライコンテナ」では、空港施設や機内の激しい温度変化に直面するため、ワインの品質が大きく変化する可能性があります。B社はドライコンテナでワインを輸入しました。コンテナ内の温度を細かく設定できるリーファーコンテナなら、こうしたリスクを回避できます。

リーファーコンテナをRFIDを使ってトレースする

 近年、さらに注目されているのが、リーファーコンテナに対するトレーサビリティ(追跡可能性)の確保です。トレーサビリティとは、「ある物品や活動についての履歴と、その使用状態、または、その位置などを明らかにすること」です。リーファーコンテナであれば、例えばコンテナ内の温度を18℃に設定したならば、海外の空港などの発荷地から国内の着荷地まで、設定温度通りに輸送できたかどうかの履歴を記録します。

 トレーサビリティを確保するためには、リーファーコンテナにRFID(ICタグ)などを装着し、温度管理の高度化を図ります。冒頭で紹介したワインの例のように、定温輸送の重要性が高まる中、リーファーコンテナの機能強化と併せて、トレーサビリティの充実を推進することが、次世代定温輸送の必要条件になりつつあるのです(図1)。

図1:次世代定温輸送の必要条件

 定温輸送の実現に向けて、温度・湿度をリアルタイムにモニターし、データを通信によりクラウドなどへ送れるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)サービスへのニーズが顕在化しています。センサーとしては、簡易で小型なセンサー機能付きのGPS(全地球測位システム)端末が注目されています。保冷状況の履歴と荷物の位置情報を同時に記録でき、より緻密なトレーサビリティを実践できるためです。

 例えば、UPR製の「なんつい(なんでも追跡システム)」サービスでは、1台のGPS端末で、モノの位置・温度・湿度の情報をWeb上でリアルタイムに確認できます。温度・湿度に異常が発生した際はアラートメールを送信します。

 GPS端末が安価になれば、1つのコンテナに複数の端末を設置することも考えられます。例えばトラック輸送では、納品先などで後部ドアなどを開閉することで、コンテナ内の温度が開閉扉に近い部分と遠い部分で異なってくることがあります。複数端末を設置すれば、コンテナの手前と奥側で温度がどう異なるかなどをリアルタイムにチェックできるようになります。